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『カギビト』48(ライトノベル)


 人通りの少ない路上。
 『ロック』された空間内に、不可思議な金属音が立て続けに反響する。
 蒼眞は苦い顔をしていた。
「ふはは! 貴様程度の使い手なら今までもいたぞ!」
 佐山は蒼眞の鍵を全て己の鍵で弾いていた。
「よくその程度の実力で余を打ち砕くなどと言えたものだ!」
 体勢の崩れた蒼眞の腹に、蹴りを叩き込む佐山。
 鈍い音がして、蒼眞は仰向けに倒れた。
 シャカシャカシャカシャカ。
 蒼眞のヘッドフォンからの音漏れが辺りに響き渡る。
「終わりだな、氷鉤蒼眞」
 佐山は蒼眞の腹に足を乗せた。ギリギリと、徐々に力を込めていく。
「……ふん、あきらめたか?」
 抵抗せず、蒼眞は佐山を見ていた。
 シャカシャカシャカシャカ。
 音漏れがする中、蒼眞はただ一言。
「おい佐山、ブースターって知ってるか?」
「うん?」
 佐山は眉をひそめた。
「一時的にギターの音量や歪みを増すことだ」
 蒼眞は蒼い鍵、『心鍵』を自らのこめかみに突きさした。
「『アンロック』」
 カチャリ。
 乾いた音と、蒼眞の涼やかな声が同時に響いた。
 その刹那、佐山の視界が反転する。
「! なんだ?」
 遅れて、佐山は自分にかかる重力が無くなっていることに気づいた。
「ブースターを使えば、そいつのソロが始まるって合図だ」
 佐山の目に、蒼眞は上下逆さまに映っていた。
 逆さまの蒼眞は、笑う。
「つまりな、これからオレのソロが始まるってことだ!」
 途端発生する重力。宙に浮いていた佐山は、地面に激突した。
「うあっ……!」
 鈍痛が佐山を襲う。
 いつの間にか立ち上がっていた蒼眞は、倒れている佐山の前に行き、MP3を停止させた。
「佐山、『鍵人会』のデータベースによると、おまえは『鍵人』になって間もなく死んだことになってるらしいな。ということは、ちゃんと『鍵人』として働いたのは、せいぜい半年くらいだろう」
「それが……なんだというのだ?」
 佐山は起き上がった。立ち上がる際、全身を襲う痛みに一瞬顔を歪めた。
「要するに、おまえは知らないわけだ」
「だからなにがだっ?」
 要領を得ない蒼眞の物言いに、佐山は苛つく。体の痛みなど忘れて蒼眞に突進。鍵を突き出した。
「『鍵人』の真の力をな」
「!」
 蒼眞は佐山のすぐ後ろにいた。佐山の背中にドロリとした汗が流れる。
「し、真の力だと……?」
 佐山は動くことができなかった。背後から発せられるプレッシャーに、全身を縛りつけられる。
 蒼眞は佐山の後頭部に鍵を当てたまま、涼やかな声を吐く。
「人間はな、普段は無意識のうちに体にリミッターをかけてるんだ。なぜなら、ただ生きていくだけならその程度の力で十分だからだ。そもそも、リミッターがなかったら体に負担がかかるしな」
「……?」
 蒼眞の話が突然逸れ、佐山はさらに混乱した。相変わらず体はコンクリート漬けにされたみたいに動かない。
「ところが、『鍵人』はそのリミッターをはずすことができる」
 不敵に笑い、蒼眞は鍵を佐山から離した。
「意味が……わからん!」
 佐山は振り向きざまに、鍵を振り回す。
「こんな風にな」
「っ?」
 またしても佐山の後ろから響く涼やかな声。
 蒼眞は佐山の背後にいて、やはり彼の後頭部に鍵の先端を当てていた。
「体にかかっていたリミッターを『アンロック』する。これが『鍵人』真の力だ。仲間内では『解錠(かいじょう)』とか言ってるけど、オレは勝手に『ブースター』って名付けてるぜ。その方がカッコいいしな」
 ガタガタ震える脚をなんとか動かし、佐山は蒼眞から離れると、振り返った。
「し、知らない……。余は知らないぞ……。『解錠』など……『鍵人』がそんな風になるなど……知らない……。 そんな風に光を纏うなどっ!」
 佐山は初めて『解錠』状態の蒼眞を見て、震撼した。
 笑う蒼眞。その全身は蒼白く輝く光で包まれていた。
 人間には『気』と呼ばれるものがある。それは、普段は肉眼では確認できないほど微量にしかない。しかし、たしかにそれはあり、人々の日々の生活には欠かせないものだ。現在、蒼眞の全身から溢れ出しているのはこの『気』だった。『解錠』状態になると、『気』が肉眼で確認できるほど活性化されるのだ。
「おまえが知らなくても当然だぜ。このことは普通の『鍵人』には知らされないからな。知ってるのは、オレ達『十鍵人(じゅっけんじん)』だけだ」
 『十鍵人』。
 噂でしか聞いたことはないが、その言葉は佐山でも知っていた。特別優秀な『鍵人』十人にだけ与えられる称号だ。
 蒼眞が前進すると、彼を覆う蒼白い光もついていく。さながら、それは蒼い炎を纏っているかのようだった。
 ガタガタ体を震わせる佐山。黒い鍵を手から落としそうになる。
「なぜ『十鍵人』にしか知らされないのか? それは、他の『鍵人』には信用がないからだ。『十鍵人』には何年も闇を封印し、実力ある者だけがなれる。故に『鍵人会』に信頼されている。おまえのような裏切り者を処理するのが、オレ達のもう一つの仕事だ。そして、そのための力が『ブースター』ってわけだ」
 蒼眞の眼光が鋭くなる。蒼い炎も一層燃え上がる。
 込み上げてくる吐き気を抑え、佐山は言葉を紡ぐ。
「くそっ……くそっ! 人間のアポトーシスが……。次なる段階への進化が……」
 佐山は地面を踏みつけた。蒼眞に鍵を向け、走り出す。
「貴様さえいなければ完成したんだっ!」
 黒い鍵が後僅かに迫る蒼眞。
「佐山……」
 ふっ、と微笑み、蒼眞はあっさりと佐山の手を弾き、鍵を落とした。
「人間はそんなに弱くないぜ? おまえが思ってるほど、人間は弱くない」
 蒼眞は断言した。彼の双眸には確固たる光がある。
 佐山の頭に蒼い鍵が入っていく。彼の背筋を寒いものが通り過ぎた。
「人間は強いんだ、佐山。清谷も、オレのバンド仲間も、桐崎も、緋色のもう一つの人格も、みんな闇を乗り越えた。一度は闇に呑まれたが、みんな自分自身の力で再び蓋を作り出せたんだ。闇に打ち勝ったんだ!」
 恐怖だけではない。恐怖以外のなにかが、佐山の体を震わせる。心を揺さぶる。
「う、うるさいぞ! 余は……」
「佐山っ!」
 佐山の声は蒼眞の叫びに上書きされた。
 蒼眞は淡々と言葉を紡いでいく。
「おまえも闇に勝て。おまえは闇に惑わされてるだけだ。蓋を作れば、後はオレがなんとかしてやる」
 蒼眞の声は力強く、優しい。
「余が……闇になることで人間の進化が……違うよ。僕は……そんなこと……余は僕は余は僕は……」
 頭を抱える佐山。悲しんだり、怒ったり、表情が目まぐるしく変わる。
「僕は闇を……消した……たくない……消したい……消したい余は……闇を……僕は……闇を……っ!」
 勢いよく顔を上げる佐山。
「っ消したい! 僕は、闇を、消したいよ!」
 佐山は叫んだ。めいっぱい、力の限り叫んだ。
「そうか」
 蒼眞は頷くと、『心鍵』を握り直した。
 佐山は涙を流しながら、感情の吐露を続ける。
「僕はちゃんとした『鍵人』になりたかった。だからそのために、必死で闇を封印してきたよ。でも、闇の果てにはなにもなくて……また闇しかなくて……だから僕はもう嫌になっちゃって……。そしたら、気づかないうちに自分が闇に呑まれてた……」
 溢れ出す気持ち。溢れ出す涙。
「でも、今回のことで改めて気づいたよ」
 頬の雫を拭い、佐山は苦笑する。
「僕は闇が大嫌いだ」
「よく言った」
 蒼い炎を揺らしながら、蒼眞はニヤリと笑った。
 蒼眞の目には、もう佐山を覆う黒い靄は視えない。
「行くぜ、佐山?」
「うん」
 決意ある返事だった。
「『ロック』」
 カチャリ。
 蒼眞は佐山の額に鍵をさし、ゆっくりとひねった。
 月明りに照らされ、『心鍵』が、蒼眞の体が、蒼く輝いた。
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非公開コメント

蒼眞くん、おつかれさま…

確かに負荷が掛かると思います!!
オーラが見えるくらい力を解放しちゃったら。

いろんな要素がむちゃくちゃ絡み合っていて、なんだか、ぞくぞくしました~~~。

「一度は闇に呑まれたが、みんな自分自身の力で再び蓋を作り出せたんだ。闇に打ち勝ったんだ」
↑きっとそれは、導いてくれる人、信じてくれる人の存在があってこそですね。
この「カギビト」を追わせていただきながらいつも思い出すのは「スターウォーズ」のダースベイダーです。
暗黒面と、闇って同じことだな、と。そしてそこへ堕ちるのは、優秀で一生懸命で、本当は正義感が強くて自らに厳しい人だと。
オーム真理教の信者もそうでしたね。
優秀な人材で、頭の良い人たちで、きっと本当は正しさを求めた人々だったんだろう、と思えます。

だけど、過剰なものはきっと‘闇’を生んでしまう。
過ぎたるは及ばざるがごとし、とはよく言ったもので。
足りないよりも過剰は害になります。

ああああ、物語るだけで、こうやって言いたいことをビシッとまとめて表現されるゆない。さんの力量に感嘆いたします!!!
そうなんです、物語ることで、すべてを伝える。これがfateの理想なんだけど、どうも説明が多くなって、なかなかがっくりしているノダ…

fateさんへ

うわぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!
↑歓喜の叫びです!ww

とっても長いコメントをいただけてゆない。は感無量です!
本当に感謝です! 目の前にfateさんがいたら、ゆない。は何度も頭を下げていると思います!!w

fateさんのコメントを読むたびに、ゆない。も自分の作品を改めて見直すことができます! そういう意見はとても貴重ですので、ありがとうございますの一言です!

いえいえ、謙遜しないでください! はっきり言って、物語る能力はfateさんのほうが遥かに上ですよ! いつも勉強させてもらってます!
fateさんが文章で表現されていること、ゆない。(読者)はちゃんと汲み取っていますよ!
またfateさんの別作品を読みに行きます!!
プロフィール
ゆない。と申します。

ゆない。

Author:ゆない。
ゆない。です! 作家を目指してます!

Author:ワキオ
ゆない。と共に作家を目指しています!

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