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『カギビト』46(ライトノベル)


 現在。
 『ロッカーズロッカー』Aホール。ライブ開始まで後五十分。
「あ、そうだ。待っててもしょうがないし、とりあえず蒼眞くん抜きでリハやる?」
「そうだね」
「は、はい……」
 楽美の提案に、正則と愛凛は乗った。全員釈然としない表情をしている。
[蒼眞くん……]
 大丈夫だよ。
 不安げな声を出す朱色に、緋色は力強く頷く。
「氷鉤くんは絶対来るよ」
 そう漏らし、もう一度頷いた。

 『ロッカーズロッカー』から程近い場所、そこに木塚と佐山はいた。別になにをするでもなく、二人並んで歩いている。
「それにしてもよぉ、今日の緋色ちゃん普段よりさらに可愛くなかった?」
 両手をポケットに突っ込みながら、木塚は大股で歩いていく。似合わない金髪は本日も揺れていた。
「……拓さ、毎日同じこと言ってない?」
 隣を歩く佐山は冷めた表情だ。優等生面が冷めた表情をすると、なおさら冷たさが増す。
「たしかに毎日言ってるけどさ、今日は特別だって! なにか緋色ちゃんの可愛さが倍になった気がする! 緋色ちゃんイズダブルラブ! おまえは気づかなかったか?」
「……え? うん。まぁ、そうかもね」
「?」
 相棒のいつもより薄い反応に、木塚は眉を寄せる。
「おい佐山、おまえどうし……」
 突然、木塚が倒れた。
 転んだわけではない。いきなり脱力し、倒れたのだ。
「! 拓?」
 急いで木塚に駆け寄る佐山。
 その背中に、硬いものが当たる。
「よう」
 涼やかな声が佐山の背後で響いた。
 佐山は振り向かない。そんなことをしなくても後ろの人物が誰だかわかった。
「氷鉤っ……!」
 憎らしげに声を出した後、佐山は素早く身を運ぶ。背後にいた蒼眞から離れ、大きく距離をとった。その後、胸ポケットに手を入れ、なにかを取り出す。
 それは、黒い鍵。夜よりも深い漆黒の鍵だった。持ち手の部分には精緻な紋様が刻まれていて、不思議な光を放っている。
「やっぱりおまえが『起爆屋』か、佐山春雅。いや……」
 『鍵人』状態の蒼眞は口の端を曲げる。
「クソ野郎!」
 蒼眞は声を張り上げた。怒っているのだ。自分の友を弄んだ、目の前の男に怒りを感じているのだ。静かに、しかし激しく熱く、蒼い炎は燃え上がる。
「なんのこと?」
 わからないと、佐山は両手を広げた。
「……それだけ物的証拠があって、まだシラを切るか。大した野郎だな。『ロック』」
 カチャリ。
 蒼眞は空間を封印し、そのまま鍵を佐山に向ける。
「最初は完全に見落としてたぜ。どうりで脱退した『鍵人』の名簿におまえの名前がないわけだ。おまえは脱退してなかったんだからな」
「だからなんのこ……」
「『佐山春雅・任務中に殉職』。『鍵人』の死亡者リストにそう書いてあったぜ。名前を変えなかったのは失敗だったな」
 蒼眞は佐山を一睨み。怒気を全てぶつけた。
 しかし、佐山は怯まない。
「……くくくく……」
 佐山の顔がどんどん歪んでいく。どんどん歪み、邪悪に染まっていく。優等生面は完全にはがれ、闇が姿を現す。
「くっくっくっく! 名前を変えなかったのは失敗? 貴様はバカか? 余はあえて名前を変えなかったのだよ!」
 佐山の雰囲気がガラリと変わった。両眼は極限までつり上がり、口は裂ける寸前まで歪められている。
 闇が出たな、と蒼眞は冷静に判断。鍵をしっかりと構える。
「貴様のようなバカでも気づくように、ヒントも隠しといてやっただろう? 夏代緋色のもう一つの人格、そいつの記憶の一部だけを封印しないでおいた。彼女の脳内にあった『余は死体だ』という言葉がそれだ」
 『余は死体だ』。
 蒼眞が朱色に『心鍵』をさした時、蒼眞は彼女の記憶の中にその言葉を見つけた。それによって『鍵人』の死亡リストを見るに至ったのだ。
 それは佐山の計算通りだった。
「貴様のように余に近づいてきた『鍵人』を消し、『心鍵』を奪うのが目的だ」
「それが……あの紅い鍵か?」
 ギリと、蒼眞は歯を鳴らす。佐山が鍵を二本持っているということは、蒼眞の同業者がやられたことを意味していた。
「貴様は愚かだな。貴様は余を追い詰めたつもりだろうが、追い詰められたのは貴様の方だ」
「…………」
 蒼眞は押し黙った。佐山の言葉は嘘ではない。彼から発せられる気配は自然と蒼眞にそう認識させた。
「貴様は余の巣にかかった餌だ。たっぷり可愛がってから食してやる」
 どす黒い靄が佐山の全身を覆い尽くす。それは蒼眞が今まで視てきた中でも特大の闇だった。
「貴様を食す前に、余がなぜこんなことをしているのか、教えてやろう」
 佐山は蒼眞の周りをグルグル回る。まるで捕食者が獲物を吟味しているかのように。
「時に氷鉤蒼眞、貴様はアポトーシスという言葉を知っているか?」
 依然、蒼眞はなにも口にしない。『鍵人』になる際様々な分野の教育を受けていたので、アポトーシスの意味は知っている。知っているが、この場合答えない方がいいと判断したのだ。佐山は質問の形をとってはいるが、相手に答えを求めている様子はない。
 案の定、佐山はすぐさま言葉を吐き出す。
「アポトーシスというのはな、あらかじめ遺伝子に組み込まれているプログラムに従って、細胞が死んでいくことだ。つまり、成長の課程で必要なくなった部分を削ぎ落としていくわけだな」
 佐山を覆う黒い闇は、それだけで意思があるかのように蠢く。
「余がやっていることはそういうことだ。だが、余の場合は些かそれが壮大だがな」
 佐山は嗤う。
「人間のアポトーシス。余の目的はそれだ。ただそれだけのために余は生きている。生きて、闇を開き続けている。その課程で寄ってくる『鍵人』を殺し、奪った鍵でまた闇を開く。開いた闇に鍵を渡し、さらに闇を開く。それを繰り返して繰り返して、闇は世界に認知される」
「?」
 蒼眞の中に疑問が生まれる。佐山のやっていることはアポトーシスとは言えないからだ。
「闇が人々を埋め尽くした時、彼らはようやく気づくだろう。人の闇はこんなに恐ろしいものなのか、と。そして人々は闇を消そうとするはずだ。だが、一人一人の闇をいちいち取り除くことなど到底できない。ならばどうすると思う?」
「おまえ……」
 蒼眞は佐山の言いたいことがわかり、その腐った考えに双眸を尖らす。
 突然、佐山の闇が広がり、蒼眞に襲いかかった。
 かのように蒼眞には見えた。
 実際はなにも起きていない。ただ佐山が蒼眞に向けて喋り続けているだけだ。
「きっと闇になってしまった人間を殺すだろうな。殺すことで闇を消し去るのだ。そして闇を全て消した時、つまり、闇に呑まれた人々を全て殺し終えた時、アポトーシスは成される。人類は新たなステップへと進めるのだ!」
 佐山は両手を広げ、空を仰ぎ見た。
「……くだらない」
「うん?」
 自分に陶酔していた佐山は、蒼眞の零した声を聞き漏らした。
「くだらないって言ってんだ」
 今度はちゃんと蒼眞の言ったことを聞いたが、いざ聞いてみるとそれは佐山には理解できない言葉だった。
 蒼眞は首にかけているヘッドフォンを装着する。
「そんなくだらない理由で、清谷は、楽美さんは、桐崎は、そして朱色と緋色は苦しんだっていうのか? 反吐が出る!」
 蒼眞の両眼が限界まで鋭くなった。冷たく燃え盛る蒼い炎が、その中でユラユラ揺れる。
「佐山、おまえの話はくだらな過ぎる。聞く必要なんかないぜ」
「なんだと? 貴様ごときが……」
 蒼眞はMP3の再生ボタンを押した。
 耳に、心に、極上のロックサウンドが流れ込む。煌びやかに歪むギター。大地の雄大さを彷彿とさせるベース。 人の鼓動と同調するドラム。そして全てを支配するシャウト。
 シャカシャカシャカシャカ。
 ヘッドフォンには収まり切らない心揺さぶる音達は、外の世界さえも呑み込んでいく。
 シャカシャカシャカシャカ。
 シャカシャカシャカシャカ。
 蒼眞は鍵の先端をまっすぐ佐山に向ける。その姿はさながら、剣を持った戦士のようだ。
「ーーーー!」
 佐山がなにか叫んでいるみたいだが、蒼眞には聞こえない。聞く必要もない。
 シャカシャカシャカシャカ。
 蒼眞は今の佐山の人格、それごと『ロック』することにした。
 鍵を使う者同士の戦いというものは記憶や人格の消し合いだ。どちらかが相手の額に『心鍵』をさした時、勝負は決する。それ故、戦いはハイスピードで展開されることが多い。
 シャカシャカシャカシャカ。
 しかし、蒼眞はゆっくりと歩いていた。蒼い鍵を突き出したまま、一歩一歩佐山に近づいていく。
 佐山は動けずにいた。彼は自分こそが捕食者だと思っていたが、今の状況はまるで正反対のものだった。
 そこで佐山は気づく。
 先刻、佐山の全身を包む闇が蒼眞を襲った時のことだ。あれは闇が蒼眞を攻撃したわけではなかった。闇はそうせざるを得なかっただけなのだ。目の前の青年から放たれる冷気、怒気、覇気により、闇は防衛反応をしてしまっただけだった。
 蒼眞の鍵が佐山のすぐ前まで迫る。
「くそおぉっ!」
 もちろん蒼眞には聞こえない咆哮。佐山は黒い鍵で蒼眞の鍵を弾いた。
 不自然な金属音が鳴り、それが戦いの合図だった。
「佐山! おまえの妄想は……オレが打ち砕く!」
 蒼い光が、闇を切り裂いた。
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カテゴリ欄が・・・

気付いてみてみるとゆない。さんのブログ
のカテゴリ欄の長さがすさまじいことに・・・

これだけ書いたってことですね!

遂に、最終決戦ですか~

あああ、なんだか、『花籠』の似たようなシーンを思い出してしまったが、fateはこういうシーンを緊迫感とかリアリティを載せて描くことが出来ないので、おおおお、と勉強させていただきながら、追いたいと思います。

ふふふふ。
でも、『花籠』はもう終了しているから、大丈夫、盗用したりはしません!
(でも、次回作には保障の限りではありません…)

「そんなくだらない理由で、清谷は、楽美さんは、桐崎は、そして朱色と緋色は苦しんだっていうのか? 反吐が出る!」
↑これが、彼の言いたいことのすべて。この世界の集約ですかね~
おおお、カッコいいぞぉ、蒼眞くん。

kitutukiさんへ

確かにカテゴリ欄、長いですねw

でも、詩なんかは一作ごとにカテゴリ欄を増設しているので、作品数としてはそんなに多くないですよ。
お暇なときには過去の作品もどうぞご覧ください!

いつもコメントありがとうございます!

fateさんへ

はい! 最終決戦です!
もう本当にあと少しで終わりです。
長い長い作品でしたが、fateさんにはここまでお付き合いいただけて、本当に感謝しております!

未熟なゆない。を褒めてくださり、ありがとうございます! あと蒼眞のことも感謝感謝です!
プロフィール
ゆない。と申します。

ゆない。

Author:ゆない。
ゆない。です! 作家を目指してます!

Author:ワキオ
ゆない。と共に作家を目指しています!

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