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『カギビト』45(ライトノベル)


Lock5、闇の果ての光
 ライブハウス『ロッカーズロッカー』のAホール。以前『コバルトブルー』のライブがあった場所。
「蒼眞くん遅いねぇ」
 唇を尖らせながら、楽美は呟いた。彼女の肩には、世名から譲り受けたリッケンバッカーの黒いベースがかけてある。
「し、心配です……」
 心底不安そうに、愛凛は表情を曇らせた。こちらの肩には赤いギターがかけてある。エピフォンのセミアコだ。
「僕は別に蒼眞くんはいらないけどね。彼がいなければ僕はハーレムだ。美女三人は僕のものさ」
 気持ち悪いことを言いながら、正則はパールのドラムセットを組み立てる。
 相変わらずだなぁ……。
 そんな三人の態度に、緋色は微笑んだ。なにも楽器を持ってないにも関わらず、ステージ上にいる緋色。彼らと顔見知りの緋色は、特別に中に入ることを許可されていた。
 楽美、愛凛、正則、それにただいま不在の蒼眞。彼らは『コバルトブルー』というバンドのメンバーだ。
 時刻は午後六時。『コバルトブルー』のライブ開始まで後一時間。メンバー達は本番前の最終リハーサルをしていた。しかし、蒼眞だけが先程からおらず、連絡もつかない状態だ。
[バンドって楽しそうだよね。ワタシもやってみたいな]
 緋色の脳内にそんな声が響いた。
 本当にみんな楽しそうだね。生き生きしてるよ。
[やるならギターがいいな。蒼眞くんともっと仲良くなれそうだし。手取り足取り教えてもらいたい]
 あはは……。本当に氷鉤くんに惚れちゃったんだね、朱色ちゃん。
 緋色と脳内会話を繰り広げているのは朱色だった。蒼眞が二人の間にあった扉を『心鍵』で開いたので、このようなことが可能になっている。意思が完全に独立している二人だからこそできる芸当だ。普段、片方の人格は眠っていて、会話の時だけ目を覚ます。
[当然だよ。蒼眞くんはワタシの命の恩人だもん。それになによりカッコいいし]
 まぁ、たしかに氷鉤くんは……カッコいいかな……。
 少し頬を染め、緋色はそんなことを思う。今回起きた様々なことで、蒼眞に対する見方は百八十度変わっていた。
[あー、やっぱり緋色ちゃんも蒼眞くんのこと好きでしょ?]
 え? す、好きじゃないけど……嫌いでもない……かな……。
[ふ~ん。で、その蒼眞くんはいつ来るんだろ? 早く会いたいのに……]
 そうだね、もう時間もないし、なにかあったのかな?
 緋色は首を傾げた。

 ところで、なぜ緋色が、いや、緋色と朱色がここにいるのか。
 時は六時間前にさかのぼる。

 駆木高校屋上。以前に蒼眞と緋色が話した、ひっそりとした場所。
「氷鉤くん、昨日は本当にありがとう。……あれ? 十二時過ぎてたから今日かな? とにかくありがとね。氷鉤くんのおかげでわたし達は救われたから」
 真面目な顔で頭を下げる緋色。朱色ではなく、緋色自身だ。
「いえ、今回はボクも随分夏代さんにお世話になりましたから、おあいこですよ」
 蒼眞は穏やかに微笑んだ。その後、なにかに気づいたようにポンと手を叩く。
「もう『夏代さん』ではありませんね。夏代さんは二人いるんですから。というわけで改めまして、こちらこそありがとうございました、緋色さん」
「っ……!」
 緋色は咄嗟に顔を逸らした。一瞬で真っ赤になってしまった顔を見られたくないのだ。
 あぅ……。なんかアレ以来余計に氷鉤くんのこと意識しちゃうよ……。
 緋色が蒼眞から全力で逸らした視線の先には、青い空が広がっていた。汚れなき雲は高い高い位置にある。僅かの間、緋色の心は空に釘づけになった。
 だから蒼眞がすぐ近くに来たことに、緋色は気づかなかった。
「緋色さん、一つ提案なんですが……」
「ひゃうっ……?」
 逆に蒼眞の方が驚くほど、緋色は飛び跳ねた。両腕で自分を抱き、潤んだ瞳で蒼眞を見る。
「な、なに……?」
「はい、緋色さんと朱色さんが会話する方法を先程思いつきました」
 言うが早いか、蒼眞は胸ポケットから鍵を取り出す。メガネをはずし、髪を整えると目付きが変わった。
「緋色と朱色は完全な別人格だ。それが一つの脳に入っている。となると、二人の間には互いが干渉しないようにするための扉があるってことだ。オレの予想だとその扉を『心鍵』で開けば……」
「朱色ちゃんと話せる?」
「多分な。きっと頭の中で会話できるはずだ」
「それすごいよ! もしできたら嬉しいな!」
 興奮する緋色。片側にまとめて結んだ髪を揺らす。
「じゃあ、とりあえずやってみるか」
「うん! お願い!」
 蒼眞はゆっくりと緋色の額に鍵を入れていく。なんとなく緋色は目を閉じた。
「『アンロック』」
 カチャリ。
 世界に響く乾いた音。
「緋色、どうだ?」
 緋色の耳に届くのは蒼眞の涼やかな声。そして脳内に響くのは、
[緋色ちゃん、ワタシの声が聞こえる?]
 紛れもなく朱色の声だった。
 う、うん! 聞こえるよ!
 緋色は頭の中で答えた。すると、再び脳内に声が響く。
[やったぁ! 緋色ちゃんと話ができて嬉しい!]
 わたしも、わたしもだよ!
 緋色の瞳から涙が溢れた。感動で心が震える。それはきっと朱色も同じだろう。
[あ、緋色ちゃんにお願いがあるんだけど……]
 いいよ、なに?
[今だけワタシに体貸してくれない? 氷鉤くんに言いたいことがあるの]
 うん、わかった。
 緋色は胸の鍵を掴み、自分の額にさしてからひねった。
 カチャリ。
 途端、緋色の様子が変わる。髪と瞳は紅みを増し、雰囲気もどことなく壮麗なものになった。
「……朱色か?」
「うん、また会えたね、氷鉤くん」
 朱色は挨拶すると同時、驚くべき行動に出た。
「氷鉤くんっ!」
「なっ……?」
 いきなり蒼眞に抱きついたのだ。蒼眞の体をがっちりと掴み、キツく抱き締める。
「ありがとう氷鉤くん……本当にありがとう……」
 朱色の声は震えていた。
「はぁ、まいったな……」
 朱色を優しく抱き返しながら、蒼眞は呟く。
「惚れちまいそうだ」
 この時、なぜ緋色が黙っていたのかというと、驚きと恥ずかしさによって言葉が出なかったからだ。
「氷鉤くん……あ、あの……」
 蒼眞からやや距離をとり、朱色は俯いた。
「ん? なんだ?」
 蒼眞が尋ねても、朱色はなかなか口を開かなかったが、やがて小さく漏らす。
「……『蒼眞くん』って呼んでも……いい?」
 しばらく目を丸くする蒼眞。ややあってから笑みを作る。
「もちろんいいぜ、朱色」
 その返事に、朱色は瞳を輝かせた。頬を朱に染めながら体をくねらせる。
「ありがとう……蒼眞くん」
 呟いてから、朱色は額に紅い鍵をさし、それをひねった。
 カチャリ。
「わぁっ……?」
 急に彼女の態度が変わった。びっくりしたように目を見開いている。視界に蒼眞が入ると、みるみる顔が赤くなった。
「あの……その……氷鉤くん……」
 明らかに混乱している彼女は緋色だ。先刻朱色がやったことで頭がいっぱいになっていた。
「ところで緋色、放課後暇か?」
「えぅぇ? ほ、放課後?」
 放課後ってことは夜だよね……。いったいなにをする気なんだろう?
 緋色の脳内に様々な憶測が巡る。
 蒼眞は小さくため息を吐いた。このままでは話が進まないと判断したのか、人格を切り換える。
「今日ボク達のライブがあるんですよ。新しいメンバーになってから初めてのライブです。もし暇なら見に来ていただきたいんですが……どうですか?」
「へ? あ、そうなの? そういうことならあいてるよ、放課後」
 慌てて緋色は返事をした。未だ頬は赤い。
「よかったです。それなら今日の午後七時、『ロッカーズロッカー』に来て下さい」
 蒼眞は二枚のチケットを緋色に渡して、にこやかに微笑む。
「お二人で、ですよ」
「う、うん! ありがとう! 朱色ちゃんもありがとうだって!」
 その後緋色の携帯に楽美からの呼び出しが来て、緋色はリハーサルを見ることになった。
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非公開コメント

二つの人格が会話する…

これ、多重人格者でもあるっぽいですね。
すんません、変な日本語で。
ちょっと日本語、不自由です(--;

ええと、本体の人格があって、別人格がたくさんあると、本体が休んでいる間、別人格同士が会話したりするってナハシを読んだことあります。
でも、結局、多重人格であろうがその元は、基本的に本人だから、最終的にはすべての人格を融合させて一人に戻すってのが治療のようですね。

これは、最後、どんなところへ導かれるのか、大変、楽しみです(^^)

No title

今さらながら気づきましたが、カギビトって
5日おきに書かれているんですね。

というか体貸すとか普通では考えられません!
どうしたらそんなすごい発想が出るのか
不思議でなりません!

fateさんへ

毎回のコメント、とっても嬉しいどぇす!!w
ありがとうございまっす!!

そうですね、なんか緋色ちゃんは二重人格になってしまいましたw
新しいタイプのヒロインを狙ってみた結果です!

最後までお付き合いのほどお願いします!!

kitutukiさんへ

訪問、コメントありがとうございます!!

いえ、特に更新ペースは意識してませんでしたw
でも、そんなふうになってたんですね。

ゆない。の発想を褒めてくださってありがとうございます!
単にゆない。が変人なのかも……ww
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ゆない。です! 作家を目指してます!

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