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『カギビト』44(ライトノベル)


 翌朝、午前八時。
 窓から射す光で、緋色は目を覚ました。
 しばらくぼーっとしていたが、やがて驚いた様子で辺りを見回す。部屋を、自分の体を慌てて確認した。
 嘘? なんで?
 困惑している彼女は夏代緋色ではなかった。いや、見た目は緋色とほとんど一緒なのだが、中身が全然違うのだ。
 ワタシは氷鉤くんに封印されたはず……。
 彼女は昨夜蒼眞と話をしたあの少女だった。舞依、楽美、桐崎の闇を開いた『起爆屋』でもある。
 少女はベッドから飛び降りると、もう一度周囲を見渡す。
 そこはどっからどう見ても緋色の部屋だった。
 少女は自分の頬をつねり、両目をこする。そしてまた周囲を確認。
 何度やってもそこは夏代緋色の部屋だった。
 自分の境遇が彼女は理解できない。昨夜たしかに蒼眞に封印されたはずなのだ。
 辺りをキョロキョロ見ていると、ふと自分の首に重さを感じた。少女が胸元に目をやると、
 ……鍵?
 チェーンを通し、ネックレスのようにした真っ赤な鍵がそこにあった。異様な輝きを放つそれは、間違いなく『心鍵』だ。
 少女の頭をさらに疑問符が埋め尽くす。
 わからない。ワタシはいったいどうなったの……?
 もしかしたらここは死後の世界なのかも、と少女が思案し始めた時、それは目に入った。
 勉強机の上にあるそれは四角い紙。淡いピンク色の封筒だった。
 少女は近づいて封筒を手に取る。
『名無しの美少女さんへ』。
 封筒にはそう記してあった。見覚えのある字体だ。毎日のように見た記憶がある。
 名無しの美少女……ってワタシのこと?
 誰が書いたか薄々勘づきながら、少女は封筒を裏返す。
「っ!」
 そして少女は言葉を失った。
 封筒の裏には予想通りの名前が記されていた。
『夏代緋色』。
 可愛らしい字でそう書いてある。緋色の内側にいた少女だからこそ、その文字が緋色自身の書いたものだとわかった。
 どういうこと……?
 少女の心臓が早鐘のごとく鳴る。
 震える手で掴んでいたので、封筒から中身が零れ出た。同じく淡いピンク色の便箋が幾枚か床に滑り落ちる。
 高まる緊張。入り乱れる期待と不安。
 少女は便箋を拾い上げ、読み始めた。
 手紙はこう始まる。
《こんな風に話すのは初めてだね。わたしは夏代緋色、あなたのもう一つの人格だよ》
 少女は椅子に座り、改めて手紙を読み始める。生まれて初めて贈られる自分への言葉を。
《色々言いたいことがあるけど、まずあなたに名前をつけさせて欲しいな。『あなた』とか『名無しの美少女さん』とかじゃ呼び辛いからね》
 名前……。ワタシの?
 焦燥感に駆られ、少女はさらに読み進む。
《氷鉤くんに聞いたんだけど、あなたはわたしより髪と瞳が紅いんだってね。わたしが『緋色』でしょ、だからあなたは『朱色(しゅいろ)』なんてどうかな? 『夏代朱色』。いい名前だと思うんだけど……嫌だったらごめんね。でも今だけは『朱色ちゃん』で話を進めさせて?》
 ポツポツと、便箋の上に染みができていく。
 夏代朱色……。ワタシの名前……ワタシの……。
 少女、朱色にその名を拒否することなんてできなかった。自分に名前があることがただただ嬉しい。しかも、自分が一番大切に思っている人が名付け親ともなればなおさらだ。
 満たされた心で、朱色は手紙を読み進む。
 緋色が書いたことをかいつまんで述べるとこうなる。
 まず、昨夜、朱色が蒼眞に眠らされた後の話だ。あの後、蒼眞は緋色を起こし、今回の事件の真相を話した。同時に、今まで封印されていた緋色の記憶を呼び覚ます。それによって緋色は全てを理解することができた。
 次に記されていたのは緋色の、朱色に対する謝罪だった。実のところ、生まれてからずっと緋色は朱色の存在になんとなくだが気づいていたのだ。しかし、自分を失うのが怖くて、気づかないふりをしていたのだという。それが彼女唯一の闇だった。そのことを緋色は謝った。真摯に、心からの謝罪を述べた。
 そしてその闇は、今はもうない。なぜなら蒼眞が封印したからだ。
 最後に書かれていたのは朱色への感謝と、これから先のこと。
《ありがとね、朱色ちゃん。あなたがいたからわたしは今まで頑張ってこれた。もう一人のわたしに負けないようにって、頑張ってこれたんだよ。本当にありがとう。それと、これからもよろしくね。二人で生きていこう、朱色ちゃん。
 追伸。わたしのことは『緋色様』じゃなくて『緋色』でいいからね。あ、『緋色ちゃん』だったらもっと嬉しいかな》
 ポロポロと、ポロポロと涙が零れた。手紙の上に落ち、インクを滲ませる。
「う……うぅ……うえ……うえぇぇぇん……!」
 朱色は泣いた。生まれて初めて、心の底から泣いた。悲しみではなく喜びで、絶望ではなく希望で、闇ではなく光で。
 まるで今までの闇を全て洗い流すかのように、泣いて泣いて泣いた。泣いて笑って、また泣いた。
 ありがとう氷鉤くん。
 そして、ありがとう、
「緋色ちゃん……」
 窓から射す光が異様に明るいある休日の朝、夏代朱色は生まれた。
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うおおおおうっ

すんません、朱色ちゃんと一緒に泣いてしまった~~
(キモチ悪くてすみません(--;)

さすが、緋色ちゃん!
fateが見込んだだけある、なんて良い子だ~~~
そして、緋色ちゃんを本当に本当に本当に‘天使’のように描かれたゆない。さんに、感謝を申し上げます。

結局、人間って‘闇’を抱いていないと、その‘闇’を理解出来ない。
理解出来ないモノって嫌悪を抱くしかないから、本当にはその‘闇’を救ってあげられなくなってしまう。

緋色ちゃんが緋色ちゃんであり続けながら、人の‘闇’を溶かしていけるには、朱色ちゃんの存在が必要なんです、きっと。

おおおお、それをくどくど説明せんで、物語る、ゆない。さんのセンスに感動します。
こういうことって、説明されるとくどくなってしまうけど、こやって物語ることに寄って、人の心にすうっと沈み込みます。
素晴らしいです。

これは、かなり秀逸作品ですねっ!!!

更にまたどんでん返しがあったりしたら、かなりビビりますが…

それはそれで。
また来ます~~~

No title

今日で一応受験終わりました~(*^□^*♪)
今『カギビト』読みかえし中です!!

これからもまた訪問させていただきます(o≧∀≦o)

fateさんへ

ありがとうございます!!
fateさんの言葉の一つ一つがゆない。の胸に響き、とてもとても嬉しいです!
まだ物語は続きますが、ここまでお付き合いいただいたことに、改めてお礼申し上げます!

人間の闇を取り扱った作品でしたので、fateさんに認めてもらえるかドキドキでしたが、fateさんのコメントによってその緊張が喜びに変わりました!
ゆない。のような未熟者の作品を褒めてくださり、感極まってしまいます!w

しかも、ゆない。も好きな緋色を愛してくださり、本当にありがとうございます!!
長かった物語もいよいよ最後の章ですので、どうかもうしばらくお付き合いお願いします!

KAWAUSOさんへ

受験、本当にお疲れ様でした!
大変でしたね。

そしてそして、また訪問してくださり、ありがとうございます!!
しかも『カギビト』を読んでくださるのですかっ?
う、嬉しすぎます!!!!
受験で疲れているでしょうに……。無理しないでくださいね!

ご訪問を心からお待ちしています!!
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ゆない。です! 作家を目指してます!

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ゆない。と共に作家を目指しています!

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