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『カギビト』43(ライトノベル)

「じゃあ次はワタシが話す番かな」
 少女は再びベンチに腰かけた。蒼眞にも座るように促す。
 今は話を聞くしかないか。
 なす術がない蒼眞は少女の提案にのることにした。彼女の話を聞き、少しでも闇を封印するヒントが見つかればと考える。
 蒼眞が座ったのを確認し、少女は口を開く。
「ワタシは緋色様と同じ日に、緋色様の裏の人格として生まれた。緋色様が成長していくに連れ、ワタシという存在も大きくなっていったの」
 静かに言葉を紡ぐ少女。その横顔は緋色と瓜二つだった。だが、表情はまるで違う。
「精神の内側から緋色様の生活を見ていて、ワタシは思ったの。緋色様はなんて美しいんだろう、なんて眩しいんだろうって」
 少女はうっとりと目を細める。恋する乙女のように見えるが、その全身からは依然闇が溢れ出している。
「緋色様は完ぺきだった。人を愛し、人に愛される存在だった。それでワタシは理解したの。緋色様は光なんだってね」
「それでなぜあなたが闇になってしまうんですか?」
 突然敬語になる蒼眞。
 それに少女は多少驚いた様子を見せるも、蒼眞が普段のモードに戻っただけだと悟ったようで、表情を元に戻した。
 だらしない髪型にメガネ、蒼眞がこの姿になったのには理由がある。一つは、こちらの方が相手を刺激しないだろう、ということ。もう一つは、今はまだ『心鍵』を使える場面ではないと踏んだからだ。蒼眞は、『クール』としての自分はライブの時と『鍵人』の仕事の時だけと決めていた。
 少女は蒼眞の質問に答える。
「ワタシは闇になったんじゃないよ」
「……どういうことですか?」
 先刻の話と繋がらないと、蒼眞は首を傾げた。
「ただ、気づいただけ……」
 ふっ、と少女は自嘲的に笑った。夜風が彼女の赤い髪をさらう。髪も瞳も、緋色に比べて紅い。
「ワタシが闇だってねっ!」
 歪みきった笑顔とともに、少女の瞳はギラギラと輝いた。
「絶望した瞬間はいつかって言われたら、きっとその時だろうね。だってその時すごくすごく悲しかったもん。すごくすごく。すごくすごく!」
 少女は狂ったように呟く。すごくすごく、すごくすごく、と。
「緋色様とワタシの意見はいつも反対だった。いじめられているクラスメイトがいれば、ワタシもその子をいじめればいいと思った。でも緋色様はそうしなかった。その子を助けたんだよ。毎日積極的に話しかけてさ。しだいにいじめをしていた友達もいじめをしなくなっていって、最後にはみんなで笑い合ってたよ」
 まるで夜空に話しかけているようだった。少女は虚空に言葉を吐き続ける。
「そんなことが何回もあってね、緋色様の選択は毎回正しかった。そしてワタシの選択はいつも間違ってた……」
 夜の静寂を、風が過ぎ去る。
 蒼眞は異変を感じていた。それがどんなものかはわからないが、たしかにある違和感。
「わかっちゃったんだよね、ワタシはいらない存在なんだ、って。多分ね、これはワタシの想像なんだけど、ワタシは緋色様が本来持つべき闇の部分なんだと思う。ワタシ達は光と闇が完全に分離した二重人格なんだよ。二極人格って名付けようかな」
 むちゃくちゃな理論だとは思うが、一方で蒼眞は納得することもできた。彼女が完全に闇かどうかは別として、夏代緋色という女の子には欠点がないことはたしかだ。でもだからといって、少女の考えは明らかに異常だった。
「名付けるといえば、最初に氷鉤くんが言ったみたいに、ワタシ名前がないんだ。なにか名前つけてよ? 呼び辛いでしょ?」
 蒼眞がどう答えたものかと考えていると、少女はあっさりと告げた。最初から答えなど必要としていなかったかのように。
「ま、そんなのいらないんだけどね。元々ワタシは存在してないようなものだから。それに、どうせ……」
 一瞬、少女の瞳が揺らいだ。蒼眞はその中にはっきりとなにかを見る。
 ……?
 しかし、その正体はわからなかった。
「……話を元に戻すね」
 少女の瞳は再び狂気を取り戻す。
「でも最近はそう思わないよ。ワタシは必要な存在なんだって思う。緋色様のためにいなければいけない存在なんだよ」
 胸に手を当てる少女。
「それはなぜだと思う?」
 少女は蒼眞に流し目を送る。
 その妖しい美しさに息を呑みつつ、蒼眞は思考を開始した。彼女の質問についてではない、彼女の目的についてだ。
 もしかして彼女は……。
 頭をかすめる一つの予感。浮かんでは消える。
「時間切れー」
 ブブー、と少女は顔の前でバツを作った。ぷくっと頬を膨らませながら蒼眞を睨む。
「氷鉤くんさ、ワタシの話聞いてる?」
「は、はい。聞いてました……よ」
「嘘だね。聞いてなかったんだ。ひどいなぁ……」
「……すいません」
 思わず謝る蒼眞。緋色は微笑する。
「しょうがない、正解を教えてあげるね。なぜワタシが必要か、それは緋色様をもっと輝かせるためです!」
 ダブルピースをしてみせ、少女は笑う。
「ワタシという闇がいるから、緋色様は光としていられるんだよ。強い闇で緋色様を包めば、緋色様はもっと強い光でそれを打ち消す。だから、ワタシは闇を作り出す。作り出して、緋色様に取り払ってもらうの。そうすることで緋色様はますます人に愛され、ますます光り輝くんだよ!」
 刹那、少女の体から大量の闇が湧き出た。同時に彼女の両目が充血したように深紅と化す。
 それがあなたの闇ですか。
 蒼眞は少女の闇を正しく理解し、再び胸ポケットの『心鍵』に手をかける。だが、相手の心にまだ蓋はない。一気にたたみかけることは不可能だ。
 時間稼ぎと、相手の心を揺さぶるために蒼眞は言葉を紡ぐ。先程から気になっていた違和感の正体を確かめる意味もある。。
「どうして……どうしてあなたはその話をボクにしたんですか?」
 闇をさらけ出せば出すほど、少女にとっては不利になる。にも関わらず彼女は自ら進んで話をした。それが蒼眞には不思議だったのだ。
 さぁ、どう出ます?
 少女の返答しだいによっては、蒼眞の推測は確信へと変わる。
 しかし、少女は蒼眞の質問には答えなかった。
「どうしたの? 鍵を掴んだりしてさ。それでワタシを封印する?」
 蒼眞の問いに問いで返した少女は、素早く立ち上がった。真剣な表情で蒼眞の方に歩み寄る。
 蒼眞も咄嗟に立ち上がった。片手でメガネをはずし、髪を整え、もう一方の手で鍵を突き出す。瞳を研ぎ澄ました。
「ワタシは闇だもんね、悪だもんね」
 歪んだ顔の少女はスタスタと歩いていき、蒼眞の目の前まで来て止まった。両者の息が触れ合う距離だ。
 蒼眞は緊張した。美少女が眼前に迫っているからではなく、今ここで戦闘になったらと危惧しているのだ。もしそうなったら、蓋のない彼女に蒼眞は勝つことができない。
 まずいな……。
 二人の鋭い双眸が交錯する。静まり返る空間。
「……いいよ」
 静寂を打破したのは吐息のような声。
「え?」
「いいよ。ワタシを封印しても」
 少女は微笑んでいた。目を細め、穏やかな表情をしている。全身から流れ出ていた闇も今はない。
 そうか。やっぱり……。
 蒼眞の考えは当たっていた。
「おまえ……最初からそれが目的か?」
 蒼眞の涼やかな声は、薄暗い世界に染み渡る。
「……なんのことかな?」
 いたずらっぽく少女は舌を出した。
「とぼけるな。おまえはオレにやらせるつもりなんだろ?」
「……だからなにをさ?」
 どうやら少女は答えたくないようなので、蒼眞が言うことにした。悲しくて切ない、彼女の目的を。
「おまえはオレに封印されるのを望んでんだろ?」
「っ……!」
 俯き、少女は後ろを向いた。背中が小刻みに震えている。
「なんだかんだ理由をつけても、結局おまえは自分が嫌いなんだろ? だからオレに消してもらいたんだ」
「っそうだよっ! ワタシは自分が大嫌い! 緋色様のためとか理由をつけて、生きてる自分が大嫌いだよ!」
 声を張り上げる少女。手は、肩は、小さく震え続ける。
「ほんとはとっくにわかってる。緋色様にとってワタシなんて必要ないことは」
 蒼眞にはわかる。今少女の口から吐き出される言葉は、胸から溢れ出る気持ちは、紛れもない真実だと。
「だからワタシは自分で自分を封印しようとした。だけど……だけどね……」
 少女の足元にポツポツと染みができていく。
「できなかった……。ワタシにはそんな勇気なかったの。結局自分が可愛いんだよ……」
 少女は振り返った。その瞳から雫が溢れていく。小さな小さな光の粒は、徐々にその数を増した。
「だからオレにやらせようとしたのか?」
「……うん」
 少女が頷いた時、透き通る涙が弾けた。
「そうか……。わかった」
「ワタシの願い、叶えてくれるの?」
「ああ、オレは最善を尽くすぜ」
 任せとけ、と蒼眞はウィンクをして見せた。
「ありがとう、氷鉤くん……」
 今にも消え入りそうな笑顔を浮かべる少女に、もう黒い闇は視えない。
「二つだけ訊かせてくれ」
『心鍵』を少女の額に突きつけ、蒼眞は動きを止めた。
「なに?」
 少女と同じように穏やかな表情でいた蒼眞が、一瞬だけその瞳に炎を灯す。
「おまえに鍵を渡したやつは誰だ?」
「それが……わからないんだよね……」
 少女は表情を曇らせた。
「わからない?」
「うん。いつの間にか『鍵人』のことを知ってて、いつの間にか『心鍵』を持ってたんだ……。結構最近だとは思うけど……」
「そう……か」
 しばらく考える素振りを見せた後、蒼眞はもう一つの気になることを口にする。
「今までどうやって夏代を騙してきた? 単に記憶を消すだけじゃ、その辺の記憶が曖昧になって不審に思われるだろ? しかもそんなことが頻繁にあったらなおさらだ」
 少女は顎に指を当て、微笑する。
「それはね、記憶を封印したんだよ」
「?」
 答えになっていない答えに、蒼眞は眉を寄せた。
「記憶を無くしたっていう記憶を消したんだ」
「そういうことか……。たしかにそれなら夏代も気づかないわけだ」
 感心する蒼眞の腕を片手で掴み、少女は蒼い鍵を自分の額に押しつける。『心鍵』はスルスルと中へ入っていった。
「お、おいっ……?」
 動揺する蒼眞。
「さ、もうお話は終わり」
 微笑する少女。
「早くしないと、夜更かしは体に毒だからね」
 少女はもう片方の手で蒼眞と握手した。
「ありがと、氷鉤くん。ワタシ、あなたのこと好きかも」
「っ……」
 蒼眞は息をするのを忘れてしまう。それほどまでに彼女は美しかった。闇夜でも映える白い肌、軽やかになびく赤い髪、憂いを秘めた紅い瞳。緋色とは違う美しさが少女にはあった。
「これは氷鉤くんに渡しとくね。なにかの役に立つと思うから」
 そう言って紅い鍵を蒼眞に渡すと、少女は両手を離した。
「鍵をひねって」
 決意を込めた少女の顔に、蒼眞は頷く。
「じゃあな、名も無き美少女さん」
「うん、ばいばい……」
 少女の瞳に溜まった涙が、月を映した。
「『ロック』」
 カチャリ。
 涼やかな声が、乾いた音が、世界に響いた。
 意識のなくなった少女を、蒼眞は抱きかかえる。少しの間夜空を眺めてから、歩き出した。
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シンクロしました。

‘闇’の美少女に。
(fateは実際、‘闇’を抱く者の方が美しいと思うのダ)

昔考えた『双樹』というハナシに似ていてぞっとしました。
あっちの場合は、二重人格ではなく、双子でした。
物語の背景が戦乱状況で。兄が闇をすべて引き受け、妹を光の中に置くんだけど、兄は敵の手に堕ちて、死ぬことが決まったとき。
彼は自分が引き受けていた‘闇’が、自分の死に寄って、妹に還ることを恐れた。
その‘兄’が取った手段がまた悲しかったんだけどさ。

そんな世界でした。
闇を引き受ける者は、結局、‘光’を愛していて、守りたいからなんだというテーマが似通っていて、なんだか、泣けました。

赤い鍵を渡したやつ。
さて、誰でしょう?

そして、ゆない。さんの想いがどこへどう決着を付けるのか!!
ううう、ゾクゾクします~
ふふふふふふ。


No title

久々のカギビトですね。

ざっと20日くらい・・・

二十日分読むのは大変ですが頑張って
読んじゃいますよ!

fateさんへ

パン、パン(fate大明神様に手を合わせるゆない。)

いやいやぁ、本当にありがとうございます、fateさん!
いつもコメントをいただけて、ゆない。は……ゆない。は……感動しております!!

『双樹』という作品、とても気になります!! 読みたいです!!
というか、fateさんのような素晴らしい作家さんの作品とゆない。の作品が似ていたなんて、とても嬉しいです!

もうすぐいよいよ最終章です!
どうか最後までお付き合いくださいませ!!

kitutukiさんへ

よ……読んでくださるのですかっ??

あ、あ、あ、ありがとうございます!!!!!
本当に感謝です!

無理しないでくださいね?w

最後に、もう一度、ありがとうございます!!!!!!
プロフィール
ゆない。と申します。

ゆない。

Author:ゆない。
ゆない。です! 作家を目指してます!

Author:ワキオ
ゆない。と共に作家を目指しています!

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