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『カギビト』41(ライトノベル)


 舞依と別れてすぐ、緋色は蒼眞と再会した。煮え切らない表情をしている。
「えとね、氷鉤くん……」
 口を開きかけた緋色を、蒼眞は片手で制した。メガネ着用、前髪ダランモードの蒼眞だ。
「最後に情報の整理をしますから、今は報告しなくていいですよ」
「え? う、うん……」
「では次の場所に向かいましょう」
 言い終わると、蒼眞はさっそく歩き出した。すぐに緋色も追いかける。
 目的の場所にはほどなくして着いた。
 『Loud Sound』。
 蒼眞行きつけの楽器店だ。快活な女ベーシスト、小橋楽美が働く場所でもある。
「緋色ちゅわ~んっ!」
 目当ての人はすぐに見つかった。店に入るなり緋色を熱く抱擁する。
「ららら楽美さん?」
 そのまま上下に揺さぶられる緋色。結んだ髪が激しく踊り狂う。
「どうも、楽美さん」
「ふぉっ? 蒼眞くん、いたの?」
 微妙に失礼なことをサラッと言い、楽美は大袈裟なアクションをとる。彼女こそ緋色達が次に話を聞く相手、小橋楽美だ。
「どうし……」
 質問しようとして楽美は動きを止めた。未だ腕の中の緋色と、少し離れた位置にいる蒼眞を交互に見る。
「ら、楽美さん……?」
 嫌な予感が緋色の頭に浮かんだ時、楽美が子どものように目を輝かせた。
「緋色ちゃんおめでとう!」
 ああ、やっぱり……。
 楽美に再度ギュッと抱き締められながら、緋色は彼方を眺めた。
「楽美さん、今日は話があって来ました。ひとまず夏代さんを解放して下さい」
「なに? 婚約発表? 俺の嫁に手を出すな?」
「違いま……」
「違いますっ!」
 緋色は楽美の腕を振り払った。ぷくっと頬を膨らませる。
「わたしと氷鉤くんはそんなんじゃありません!」
「あはは……ごめんごめん」
 両目をつり上げる緋色に迫られ、楽美は苦笑する。またやり過ぎたと反省したのだろう。
「で、話ってなんなの? わたし昼休みだから詳しく聞くよ?」
 ようやく本題に入れたことに、蒼眞は安堵する。
「それではまず場所を移しましょう」
 三人は店を出た。

 楽美から話を聞き終えた緋色と蒼眞は次なる目的地へと向かっていた。
「じゃあまた後でね」
「はい」
 そろそろ到着しそうなので蒼眞は緋色から離れた。また遠くから様子を窺うつもりだ。今回の相手は彼がいるときっと大騒ぎすると予測されるからだ。

「ひ、緋色ちゃんっ?」
 驚きにより、思わず素を出してしまったのは坊主頭の青年、桐崎将悟だ。
「こんにちは桐崎くん」
 緋色はにこやかに挨拶した。
 二人のいる場所は学校。駆木高校の校舎裏、自転車置き場のあるひっそりした場所だ。
「な、なんで緋色ちゃ……夏代が?」
 男にしては高い声を出し、桐崎は首を傾げた。背番号のない野球のユニフォームを着ている。野球部員である桐崎がランニングしているところを、緋色が呼び止めたのだ。
「うん、えーと……」
 緋色はボールペンと手帳を取り出しながら、自嘲的に笑う。
 なんだか慣れてきちゃった、この作業……。

 傾き始めた日の下、緋色と蒼眞は歩いていた。すでに駅前を離れていて、辺りに人はいない。
「夏代さん、お疲れ様です」
 蒼眞は緋色の方を向き、頭を下げた。
「ううん、大丈夫だよ。わたしから協力するって言ったんだし」
 そう言って緋色は笑ったが、蒼眞には緋色の疲労が読み取れたようだった。
「本当にありがとうございます。情報の整理はひとまず後回しにして、どこかで休憩しましょう」
 蒼眞は周囲を見渡した。近くに公園でもあればそこに寄ろうと提案した。
 しかし、緋色は首を振った。蒼眞の目をまっすぐに見る。
「わたしは全然大丈夫だよ。それより、早く情報の整理をしよ? もうみんなが苦しむのは見たくないから。今日 みんなに会って、やっぱりそう思ったんだ。わたしはみんなが大好きだから……」
 サラサラと、どこかで木々の揺れる音がした。
 蒼眞は微笑み、メガネの奥の瞳を緋色に向ける。
「そうですか、わかりました。ではまたボクの家に来て下さい」
「うん、わかった」
 二人は蒼眞の家に向け、歩を進めた。

 高層マンション十五階、蒼眞宅。
「お疲れでしょう、どうぞ」
「ありがとう」
 昨夜と同じく、蒼眞はお茶の入った湯飲みを並べた。今回は隣に和菓子も付け加える。
 お茶を一口飲んでから、蒼眞は言葉を紡ぎ始める。
「まず質問をおさらいしましょう。最近記憶を失ったことがないか。気持ちに変化が起きたのはいつなのか。最近印象に残った、あるいはなんとなく気になった人は誰か。質問はこの三つでしたね。では報告をお願いします」
「うん。じゃあ最初は舞依ちゃんからだね」
 緋色は神妙な面持ちで手帳を取り出した。
「最初の質問ね。舞依ちゃんは記憶がなくなったことはないって。わたしと一緒に経験した記憶喪失の前後はあまり記憶がはっきりしないらしいけど、それ以外はないみたい」
「……そうですか」
 呟いてから、蒼眞はお茶に口をつけた。
「次ね。極端に気持ちに変化が訪れたのも、記憶が曖昧になる直前みたいだよ。とにかくそのあたりのことはよく思い出せないらしいから、正確なことはわからないけどね」
 和菓子を一口食べ、緋色は話を続ける。
「最後の質問ね。なんとなく気になる人はやっぱり氷鉤くんだって。それと……」
「……?」
 緋色が急に言い淀んだので、蒼眞は不審に思ったのだろう。眉を寄せた。
「夏代さん、どうしたんですか?」
 蒼眞に話の先を促され、緋色はややあってから口を開く。
「舞依ちゃんが気になるのは……わたしだって」
 緋色は上目遣いに蒼眞を見た。多少瞳を潤めている。
 最初目を点にしていた蒼眞は、やがて微笑む。緋色がなにを心配しているかがわかったようだった。
「大丈夫ですよ。この結果だけで『起爆屋』を決めるなんてことはしませんから。そもそも夏代さんはそんなことをする人じゃないってわかってますから」
 そう告げてからも蒼眞は地味に笑っていた。
 そんな蒼眞の様子に、緋色は徐々に恥ずかしくなってくる。勝手に勘違いして勝手に気にしていた自分が無性に恥ずかしかった。顔がどんどん真っ赤になっていく。
 ああ……わたしなにやってんの~。
 羞恥心に耐えきれず、緋色は机に突っ伏した。
 でも……だって……。
「次は楽美さんですね。彼女の時はボクも聞いてましたから、ボクが報告しましょう」
「……お願い」
 くぐもった声で緋色は答えた。
「楽美さんも清谷さんと大体同じ答えですね。あのライブの日の記憶は不鮮明なようです。心の闇を感じたのも同時期。最近気になる人はやはりボクと……」
 緋色は顔を上げる。
「ほら、わたしじゃん」
 泣く直前のように顔を歪め、緋色は再び机に突っ伏した。
「心配しなくてもいいですよ。所詮この情報は参考程度ですから」
 もう一度蒼眞に慰められるも、緋色は両腕に顔を埋めたままだ。
「でも、みんなわたしが気になるって……。桐崎くんだってそう言ってたんだもん」
 緋色の声は僅かに震えていた。
 ふぅ、と蒼眞はため息。手櫛で髪をセットし、メガネをはずす。
「あのな、夏代。その考えでいったら真っ先に怪しいのはオレだぞ?」
 ……オレ? それにこの喋り方は……。
 緋色が顔を上げると、そこには蒼眞であって蒼眞でない人がいた。スタイリッシュな髪型、鋭い両目、挑戦的な態度、彼は『クール』だ。
「オレを犯人にしないでもらいたいね」
「ご、ごめんなさい……」
 思わず緋色は謝ってしまった。今の蒼眞の堂々とした雰囲気が、そうさせたのだ。
「わかればいい」
 薄い笑みを浮かべてから、蒼眞は緋色の頭を優しく撫でた。
 ひ、氷鉤くん?
 慌てて緋色は俯いた。普段とまるで違う蒼眞の様子に戸惑う。
 しかし、次に緋色が彼を見ると、
「桐崎くんの話、続きを聞かせて下さい」
 いつもの蒼眞に戻っていた。メガネ、だらしない前髪、穏やかな両目の氷鉤蒼眞だ。
「……あ、ごめん。桐崎くんの答えね。桐崎くんの記憶が曖昧なのは、あの事件の前日くらいみたい。気持ちに変化が訪れたのも同じ時だって」
「なるほど……」
 全ての情報を聞き終え、蒼眞は思案顔。メガネを押し上げ、机の上に置かれた緋色の手帳を凝視する。
 緋色は緊張していた。もしかしたらこれで今回起きた事件の黒幕がわかるかもしれないからだ。
 舞依ちゃんや楽美さん、桐崎くんを苦しめた犯人がわかる。
 緋色は固唾を飲んで、蒼眞を見守る。
「夏代さん、『起爆屋』は……」
「『起爆屋』は?」
 一瞬の間。静寂が部屋を包む。
「わかりません」
 蒼眞の出した解答は実にシンプルだった。
「…………え?」
 たっぷり十秒溜めて、緋色は声を絞り出した。両目をパチクリさせる。
「いや、やはりこれだけの情報ではわかりませんね。見当もつきませんよ」
 苦笑しながら、蒼眞は頭をかいた。珍しくオーバーアクションだ。
「そんなぁ……」
 緋色はがっくりと肩を落とす。赤い髪を机に垂らした。
「すいません、夏代さん。せっかく協力していただいたのに……」
「ううん、それは平気だよ。だけど……」
 舞依ちゃん達に申し訳ないな……。
「夏代さん?」
 突然黙った緋色の顔を、蒼眞は心配そうに覗き込んだ。
「なんかわたし全然役に立ってないと思って……。舞依ちゃん達を苦しめた『起爆屋』を見つけることもできなくて、結局嫌なことを思い出させちゃっただけだよ……」
 またがっくりと肩を落とす緋色。蒼眞は、いいえ、と首を振る。
「夏代さんはちゃんと役に立ってますよ。こんなにも清谷さん達のことを想い、努力してるじゃないですか。それが一番大事なことなんですよ」
「……そうかな?」
 先刻と同じく、緋色は上目遣いに蒼眞を見た。
「そうです」
 蒼眞は断言した。今告げたことは全て本当に思っていることだとでも言うように、しっかりと頷いた。
「それならよかった~」
 安堵したように息を吐き、緋色はお茶を飲んだ。
 蒼眞はメガネを押し上げ、緋色を見る。
「夏代さんが皆さんに人気な理由が改めてわかりましたよ。優しいからです。もちろん美しくも可愛らしい容姿が第一の要因ですけどね」
「っ!」
 緋色は危うくお茶を噴き出しそうになる。
「ひ、氷鉤くん? なに言ってんの?」
「本心ですよ」
 蒼眞はにこやかに微笑んだ。
 氷鉤くんっておとなしそうに見えて、意外と大胆なこと言うんだよね。
 頬を紅潮させながら、緋色はそんなことを思った。
 その矢先、
「ボクも夏代さんのこと好きですよ」
 大変なことを蒼眞はのたまった。
「ふぇっ?」
 緋色は手を滑らせ、湯飲みを机の上に落とす。幸い、湯飲みは空になっていたので、机をコロコロ転がるだけで済んだ。
 氷鉤くんがわたしのことを……好き?
 一旦は落ち着きかけたのに、再び緋色の頬は朱に染まっていく。
 落ちた湯飲みを蒼眞は拾い、緋色に渡す。
「夏代さんの反応は毎回可愛らしいですね」
「わぇっ?」
 緋色はもう一度湯飲みを落とした。
 か、可愛い?
 真っ赤になった顔を、緋色は手で扇ぐ。
「ひ、氷鉤くん! からかわないでよ!」
 頬を膨らませてそっぽを向いた。
「すいません」
 蒼眞は苦笑し、一転、真面目な顔になる。
「とにかく今日のところはここまでですね。夏代さん、ありがとうございました。先程集めた情報を元に『鍵人会』のデータベースにアクセスしてみます。『鍵人会』を勝手に脱退した人の中に今回の『起爆屋』がいるかもしれません」
「うん、わかった」
 まだ微妙に赤い頬のまま、緋色は頷いた。
「なにかわかりしだい連絡します。とにかくまた会いましょう」
「え? またって?」
「あ、いえ、すいません。あさって、学校で会いましょうってことです」
 少し焦った様子で蒼眞は立ち上がり、玄関へと向かう。
 ……なんだろ?
 めったにない蒼眞の態度を疑問に思いつつ、緋色も玄関へと足を運んだ。
「それでは、月曜に学校で会いましょう」
「そだね、ばいばい」
 簡単な挨拶をし、二人は別れた。
 ドアを開けると、緋色の目の前に以前と同じような景色が広がる。
 綺麗だなぁ。
 知らぬ間に笑顔になっていることに気づき、緋色は自分が上機嫌だと悟った。
 赤い髪を揺らし、紅い瞳を輝かせ、緋色はマンションを後にした。

 シャカシャカシャカシャカ。
 蒼眞は大爆音で音楽を聴いていた。もちろんヘッドフォンから音漏れがしている。
「これが最後の望みか……」
 鋭い双眸で、蒼眞はパソコンの画面を眺めていた。そこに映し出されているのは『鍵人』だけが閲覧できるページだ。
 シャカシャカシャカシャカ。
 今日、蒼眞は窓から緋色を見なかった。ただパソコンの画面だけを、睨んでいる。
 シャカシャカシャカシャカ。
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なるほど…

お仲間だった人なら、闇を操れるんだもんなぁ。

っていうか、最初の‘闇’が‘光’を恋う描写。
なんだか、切ないなぁ。
まるでfateのことじゃん。って感じでした。

光が輝けば闇は濃くなる。
これは必然です。

太陽が輝きすぎて、人類は滅びに向かっている(温暖化もそのせい)という説もありますしね~

もっと身近に、あまりに素晴らしい人がいると、それに対する羨望、妬みも強くなるとか、そんな感じのこと。

なかなか難しい問題をはらみ、クライマックスへ向かってますね!

fateさんへ

わかりましたよ!
fateさんは『闇学者』ですねっ?←なにそれっ?ww

いやぁ、いつもfateさんの闇に関するご意見は勉強になります!
新しい学問を習っているみたいで、とてもおもしろいです!

毎回のコメント、本当にありがとうございます!!
ゆない。はとっっっても嬉しいです!! はい!!
プロフィール
ゆない。と申します。

ゆない。

Author:ゆない。
ゆない。です! 作家を目指してます!

Author:ワキオ
ゆない。と共に作家を目指しています!

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