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『カギビト』38(ライトノベル)


 放課後。
 シャカシャカシャカシャカ。
 人通りの少ない道を、蒼眞は一人で歩いていた。ヘッドフォンからの音漏れは毎度お馴染みだ。
 一時降った雨は完全にやみ、今は鮮やかな夕焼けが出ている。ヘッドフォンからの音漏れ以外、周囲に音はない。
 シャカシャカシャ……。
 蒼眞はMP3を停止させた。ヘッドフォンをはずし、後ろを振り返る。
「もういいですよ、夏代さん」
「う、うん……」
 夕焼けを背景に、緋色が現れた。
「それではついてきて下さい」
 蒼眞は再び歩みを開始する。だが、今度はヘッドフォンをつけない。
 言われるままに、緋色は彼の後ろを歩いていく。なんとなく若干距離をあけてしまう。
 大丈夫かな……。
 緋色は不安だった。このまま蒼眞についていっていいのか迷う。ただ、ついていかなければ先程起きたことは永遠にわからないだろう。闇のことも、鍵のことも。だから緋色は歩いていく。
 授業が終わり、生徒達が帰宅する時、蒼眞は緋色にこう告げた。
「鍵を知りたければボクについてきて下さい」
 さらにもう一言。
「あまりボクと一緒にいると夏代さんによくない噂がたちます。ですから、ボクと距離を置いてついてきて下さい」
 そういうわけで、緋色はいつかと同じように蒼眞を尾行していたのだった。だが、今回は彼の承知の上で、だ。学校から離れ、生徒が減ってきたところで一緒に歩くことが解禁になった。
「氷鉤くん……」
 緋色は蒼眞の背中に言葉を投げかける。
「なんですか?」
 蒼眞は歩みを止めない。
 緋色は少し逡巡した。これを訊くのは少し怖い。
「あのね……」
「はい」
「どこに向かってるの?」
 蒼眞は足を止めた。彼の後ろをピッタリくっついて歩いていた緋色は、危うく背中にぶつかりそうになる。
「誤解されそうなので、あまり言いたくなかったんですが……」
 頬をポリポリかきながら、蒼眞は振り返った。メガネの奥の瞳には動揺の色が見える。
「向かってるのは……ボクの家です」
「へ……?」
 蒼眞は再び歩き出した。しかし、緋色は一歩も動くことができない。
 氷鉤くんの……家?
「えぇっ?」
 緋色は小走りで蒼眞を追いかけると、彼の横に並んだ。
「い、家なんて行けないよ! 氷鉤くんのご両親にも迷惑だろうし!」
 緋色は両手をパタパタ動かした。
「その点は大丈夫です。ボクは一人暮らしですから」
 蒼眞はさらりと告げた。
「あ、そうなんだ……」
 あまりに蒼眞が淡々と喋るので、緋色はついつい胸を撫で下ろしそうになった。だが、すぐに我に返る。
「えぇっ?」
 緋色は再び叫んだ。そのまま硬直してしまう。
 氷鉤くんは一人暮らし、ってことは……。
 家で二人きり?
 ブンブンと首を振る緋色。顔が赤くなっていく。
 そんなの無理だよ! だって氷鉤くんのことよく知らないし! でも……氷鉤くんのことを詳しく知るために家に行くんだよね?
「……夏代さん? 行きますよ?」
 慌てふためく緋色をまったく意に介さず、蒼眞はどんどん進んでいく。
「ま、待ってよ?」
 緋色はどちらにも動けずにいた。前進か後退か。闇を知るか知らぬままか。
 どうしよう? どうしよう? 舞依ちゃんが一緒ならよかったのに……。
 舞依はあの後すぐ目覚めた。今頃元気に部活をやっていることだろう。同じく桐崎も何事もなかったかのように目を覚まし、ピンピンしている。
 その二人に共通しているのはどちらも記憶を失っているというところだ。緋色が見たあの光景、あの状況をきれいさっぱり忘れていた。
「…………」
 わたしやっぱり……。
 蒼眞は一定のリズムで歩いていた。もうすぐで曲がり角に差しかかる。
 知りたい。闇を、鍵を知りたい。きっと氷鉤くんがあそこを曲がっちゃったら、もう知ることはできない。知るチャンスは今しかない。
「待って、氷鉤くん!」
 緋色は駆け出した。闇を、鍵を、そして全てを知るために。

「ここ……なの?」
 呆然と佇む緋色。眼前には高層マンションが建っていた。それもかなり高級そうなもので、ここから見えるエントランスの床は大理石でできている。
「夏代さん、違いますよ。ボクの家はこっちです」
「こっち?」
 蒼眞の指差した先に緋色が顔を向けると、そこには見るからにオンボロなアパートがあった。黒ずんだ木の壁は今にも壊れそうだ。
 ……まぁ、蒼眞くん一人暮らしだもんね。安いところじゃないと住めないよね。
 蒼眞を気遣い、緋色はなるべく建物のことには触れなようにした。いたって普通の感じに振る舞う。
「じゃあ行こっか?」
 そんな緋色の肩を蒼眞が掴んだ。
「へ?」
 振り返る緋色。
「夏代さん、違いますよ。それじゃありません。こっちです」
 蒼眞は再度目の前の建物を指差した。
「だからここでしょ?」
 緋色は改めてボロアパートを確認。首を傾げた。
「そのまま上を見ていって下さい」
「上?」
 蒼眞に言われるがままに、緋色は徐々に目線を上げていく。初めはボロアパートが見え、途中からは奇妙なものが視界を埋める。灰色の壁だ。
「んん~……?」
 どんどん緋色の顔が上がっていった。髪が背中を撫でる。
「えぇっ?」
 ある程度見ていったところで緋色は大声を上げた。灰色の壁に窓らしきものが見えたからだ。さらに上へ進んでいくとベランダのようなものもあった。
「ここに……氷鉤くんは住んでるの?」
 ぽかんと口を開けた緋色の目前には、先程の高層マンションを遥かに凌ぐ高層マンションがあった。値段的にもこちらの方が相当上そうだ。エントランスの床が大理石なのは当たり前、天井にはちょっとしたシャンデリアがあった。
「はい、そうです。ボクはここの一室を借りてます」
 あっさりと告げ、蒼眞はエントランスへと足を踏み入れた。もちろん入口はオートロックだ。遅れて、緋色もおそるおそる大理石の上に立つ。
 もしかして氷鉤くんって超セレブ……?
 蒼眞の意外過ぎる姿を目の当たりにし、緋色は彼の見方を今一度変える必要があった。
 二人はエレベーターに乗った。
 緋色は緊張してしまう。まさかこんな豪華な場所に招かれるとは思ってなかったのだ。ただでさえ蒼眞と二人で気まずいのに、それに拍車がかかる。
 エレベーターが停止した。緋色が表示を見ると、ランプは十五階のところで止まっていた。
「ここの一番奥の部屋です」
 説明しながら蒼眞はスタスタと歩いた。緋色も蒼眞に続く。
 かなり高い位置なので風が多少冷たい。緋色が街を見下ろすと、ちょうどそれは夕闇に呑まれるところだった。街灯がポツポツと点いていて、まるで夜空に輝く星のようだ。
「……綺麗」
 思わず零したその言葉は、宵に溶け込んだ。
「綺麗ですよね。ボクもここから望む景色は大好きです」
 蒼眞は緋色の隣に並んでいた。彼女と同じように、世界が見せる一瞬の美しさを眺める。
「うん。ほんとにいい場所だね」
 幾つもの星が眼下に広がっていて、緋色は夜空に立っているかのような錯覚に陥る。
 緋色がふと蒼眞を窺うと、彼の前髪を風が揺らしていた。時折見える双眸は優しくも鋭い。
 氷鉤くんって意外と……。
「さ、遅くなるといけませんので、そろそろ中に入りましょう」
 僅かに微笑んでから、蒼眞は自室の鍵を開ける。その時使った鍵は蒼くなく、灰色の一般的なものだった。
「う、うん……」
 緊張と不安と一握りの期待を持ち、緋色は蒼眞の部屋へと入っていった。
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ひょえ~~~~っ

いや、三転しましたね、蒼眞くんの住処。
でもなんだか、fateの好きそうな展開に~(^^)

fateの場合、男が変だから、その変さ加減を遠慮なく行使出来るためには、財力が必要なんですな。
つまり、お金を稼ぐことにエネルギーを使ってもらっちゃ、ハナシが進まないから(^^;

まぁ、蒼眞くんも、別の意味で変だから、やはりここはセレブの方が語り易いのかなぁ、と同類に引き込もうとしたりして(・・;
いや、理由は別に良いです。
あとで納得するだろうから。
ただ、緋色ちゃんの反応が可愛くて笑えた(^^)

何が明かされるのか、期待してお待ちいたします~

fateさんへ

来たぁぁぁぁぁぁああああ!

と、腕を振り上げてしまうほど興奮しています!w
コメントありがとうございます!

なんだかなかなかストーリーが進んでなくて申し訳ないです……w
緋色は、ゆない。の描くキャラにしては珍しい性格ですので、気に入ってもらえて、とっても嬉しいです!

いつもありがとうございます!
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Author:ゆない。
ゆない。です! 作家を目指してます!

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ゆない。と共に作家を目指しています!

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