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『カギビト』37(ライトノベル)


 廊下を見渡し、舞依は途方に暮れていた。勇んで出てきたはいいが、緋色と蒼眞がどこに行ったのかわからない。以前緋色と話した場所も見てみたが、そこにはいなかった。
 緋色と蒼眞という異質な組み合わせなら目立つはず。だからきっと人がいない場所にいるはずだ。
「……屋上ね」
 舞依はそう考え、階段を駆け上がった。
「清谷っ!」
「え?」
 背後から自分を呼ぶ声に、舞依は振り返る。
「っ!」
 咄嗟に舞依は躱した。
 銀色に光る物体を。
「さすが空手部、やるな」
「……あんた……どういうつもり?」
 銀色の物体、メスを持つ青年は顔を歪めた。舌を出し、唇を舐める。
 舞依はその青年を知っている。しかし、彼が浮かべた表情は、舞依の知らないものだった。
「桐崎……」
 青年、桐崎将悟はメスを舞依に近づけていく。伴い、舞依は後退する。
「切り裂きジャックでーす。なんつって」
 男にしては高い声。桐崎はケラケラ笑った。
「あんた正気? おかしいわよ?」
 桐崎が正気でないことはわかっている。だが舞依は訊くしかなかった。
「俺は正気さ。むしろ今までで一番正気だ。おまえを殺して、その罪を野辺に着せるつもり。だからこのメスを昨日パクった」
 舞依の背中が壁についた。血塗れのメスが目前に迫る。
「はっ!」
 舞依は自慢の拳を繰り出し、メスを弾く。そのまま流れる動きで桐崎にもう一発。
「え……?」
 しかし、舞依の手は途中で止まった。
「おまえが普通の女じゃないことはわかってんだよ」
 桐崎は新たに出したメスを舞依の首筋に当て、口の端をねじ曲げた。
「じゃーな清谷。俺に解体(バラ)されて死ね」
 甲高い金属音が反響した。メスが床を転がる。
「女の子に手を出すのは感心できないぜ?」
 続けて聞こえた涼やかな声。
「おまえは……誰だ?」
 桐崎は問うた。
 眼前には彼の知らない男子生徒が立っていた。髪型はスタイリッシュ、顔は端整、首にはヘッドフォンをかけている。
「さて、誰だろうな」
 男子生徒、氷鉤蒼眞は持っている鍵を桐崎に向けた。先程はこの鍵でメスを弾き飛ばしたのだ。
「舞依ちゃん大丈夫?」
 蒼眞の背後から緋色が現れた。舞依に駆け寄る。
「ひ、緋色っ?」
 舞依は驚愕の表情で緋色を迎えた。謎の男子生徒と緋色が同時に現れたことに動揺する。
「緋色、これはどういうこと?」
「うん。あのね……」
「夏代!」
 口を開きかけた緋色を蒼眞が制す。
「話は後だ! 清谷と一緒にさがってろ!」
「わ、わかった」
 言われた通りに、緋色は舞依の手を握り数歩さがった。
「誰だか知らないけど邪魔するのか?」
 桐崎は床に落ちていた二本のメスを拾い、蒼眞に向ける。階段を反響する高い声には、妙な迫力があった。
 だが、蒼眞はまるで怯まない。蒼い鍵を前に突き出す。
「おまえの闇、『ロック』してやるよ」
 蒼眞は不敵に笑った。対する桐崎は一層顔を歪める。
「意味わかんねぇこと言いやがって。いいさ。おまえから解体(バラ)してやる!」
 桐崎は銀の刃で蒼眞に切りかかる。
「悪いな。オレは男には厳しいぜ?」
 蒼眞はまっすぐ片脚を蹴り上げた。たった一発で二本のメスは桐崎の手から離れる。
「な……?」
 桐崎が驚いている間に、蒼眞はさらに蹴りを繰り出す。今度は桐崎の足を払った。
「うぐっ……」
 仰向けに倒れる桐崎。その上に蒼眞は馬乗りになり、桐崎の額に蒼い鍵を突きつけた。
「すごい……」
 蒼眞の華麗な動きに緋色が息を呑んだ時、最初に蹴り上げた二本のメスが落ちた。
 蒼眞は鍵を押し出す。すると、鍵の先端が桐崎の額へと入っていった。途端、桐崎の動きが止まる。
「なに……これ?」
 緋色と舞依は目の前で起きていることが信じられなかった。自身の目で見ても信じがたいほど、その光景は異様なのだ。
「なるほどな。おまえの闇は破壊衝動か」
 緋色は蒼眞の『闇』という言葉に反応した。震える唇をなんとか動かす。
「氷鉤くん……桐崎くんの闇はどんなものなの?」
「破壊衝動だな。いや、こいつの場合は殺戮衝動と言うべきか」
 緋色の目にはたしかに黒い靄が、闇が視えていた。濃い闇は桐崎の全身を覆っている。
「闇が出てきた原因はなんなの?」
 緋色は一刻も早く闇を消したかった。闇は視ているだけで恐ろしい。
「原因は……」
「ねぇよ!」
 桐崎は蒼眞を押し飛ばす。蒼い鍵が宙を舞い、床に転がる。
「原因なんかねぇんだ! 俺は小さいころからなにかを解体(バラ)すのが好きだったんだからな!」
 桐崎は再びメスを握り、倒れている蒼眞に襲いかかる。その際、床の鍵を後ろに蹴り飛ばした。
「『本能型』か……厄介だな」
 蒼眞は苦い表情。銀色の刃を躱し、桐崎と距離をとる。
「氷鉤くんっ!」
 緋色の言葉を聞き、桐崎は眉を寄せた。
「氷鉤……? こいつ氷鉤蒼眞なのか?」
 信じられないと、桐崎は蒼眞の全身を眺める。顔と雰囲気は全然違うが、首にかけているヘッドフォンには見覚えがあった。
「本当におまえ……あの氷鉤蒼眞なのか?」
 桐崎は混乱した。目の前の男は氷鉤蒼眞なのか、氷鉤蒼眞だとしたらなにをしているのか、そんなことが彼の頭を埋め尽くしていた。
 そのせいで桐崎の注意が一旦思考に偏る。
 蒼眞はその隙を逃さなかった。桐崎の腹に右拳を叩き込む。
「うぐっ……」
 桐崎はなんとか踏みとどまり、再び蒼眞に切りかかる。対する蒼眞も身構えた。
「やめてっ!」
 緋色は両者の間に駆け込み、両腕を広げた。蒼眞も桐崎も動きを止める。
「どうして……どうしてこんなことするのっ?」
 紅い瞳から雫が零れた。緋色の頬を伝う。
「ひ、緋色ちゃん……」
 桐崎はメスを持つ手を下ろした。震えているのでメスがカチャカチャと鳴る。
「人を殺したいなら……命を壊したいなら……」
 緋色は桐崎よりも震える腕を精一杯伸ばす。潤んだ瞳で桐崎を見る。
「わたしを殺して!」
「っ!」
 桐崎の体が一度ビクついた。桐崎は目を見開く。
「人を殺せればいいんでしょ? だったらわたしを殺して! 舞依ちゃんでも氷鉤くんでもなく、わたしを殺して!」
 緋色が叫ぶと、悲しみを携えた瞳から涙が溢れた。
「そ……そんな……」
 桐崎は一歩後退した。相変わらず両手は異常なほどに震えている。
 蒼眞は緋色の肩をポンと叩き、彼女の前に立った。研ぎ澄ました双眸で桐崎を射抜く。
「どうした? できないのか? おまえがやりたかったことだろ? 夏代はそれをやってもいいって言ってるんだ。願ったり叶ったりだろ?」
「ちょ、ちょっと氷鉤っ?」
 舞依は慌てて叫んだ。それに蒼眞はウィンクで応える。
 そんないつもの蒼眞らしからぬ行動に、舞依は沈黙するしかなかった。
「で、できるわけないだろ! 緋色ちゃんを……」
 取り乱し、喚く桐崎。二本のメスを地面に投げつけた。
「なぜできない? 人を解体(バラ)したいんだろ?」
 不敵な笑みで、蒼眞はジワジワと桐崎に近づいていく。
「だけど……だけど緋色ちゃんは……」
「夏代は?」
「大事な……人だから……」
 桐崎の息は乱れていて、額には汗が滲んでいる。頬を伝う汗はまるで涙のようだ。
「大事な人、か。笑わせる」
 蒼眞は桐崎の胸倉を掴んだ。そのまま押していき、壁に叩きつける。
「おまえにとって大事な人だから殺せない? だったらおまえにとって大事じゃないやつは殺していいのか? 夏代が大事に思ってる清谷は殺していいのかよっ?」
 蒼眞はおもいっきり桐崎を引き寄せ、その後また壁に叩きつけた。
「やめて! 氷鉤くんっ!」
 緋色は蒼眞の腕を掴む。細い指は、小さな手の平は必死だった。
 蒼眞がゆっくりと手を離すと、桐崎は壁にもたれたまま座った。
 緋色はそんな桐崎の前にしゃがみ込み、彼と目線を合わせる。揺れ動く紅い瞳はまっすぐ桐崎を見た。
「桐崎くん、わたしが死んだらどう思う?」
 緋色の声はとても優しい。まるで親が子どもを諭す時のようだ。
「そ……それは……悲しい……」
 桐崎は目を伏せた。緋色とは決して視線を合わせない。いや、合わせることができないのだ。
「悲しいよね。大事な人が死ぬってことはとても悲しいこと……。だからわたしは舞依ちゃんが死んだら悲しいよ」
 緋色は舞依を見る。
「氷鉤くんが死んでも悲しい」
 蒼眞を見る。
「もちろん桐崎くんだって死んだら……悲しいよ」
 顔を上げた桐崎、彼の目に映ったのは大粒の涙を流す緋色だった。彼女はほっぺたや鼻を赤くし、嗚咽を漏らしている。
「だってみんなわたしのクラスメイトだもん。大切な友達だもん!」
 緋色は溢れ出す光の粒を拭った。拭っても拭っても光は零れる。
「緋色ちゃん……」
 桐崎はやっと気づいた。当たり前のことに、ようやく気づいた。誰にでも大事な人はいる。そして誰でも大事な人が死んだら悲しむということを。
 緋色を失うのは桐崎には耐えられなかった。つまりそれと同様に、誰かが死んだら、その人物を知る人は悲しむ。言いようのない苦しみを味わうのだ。
「俺は……」
 全てをリセットしたい。桐崎はそう思った。緋色を泣かせたこと、緋色の大事な人を殺そうとしたことを。
「どうやら蓋ができたみたいだな」
 蒼眞は鍵を拾い、ゆっくりと桐崎の額にさした。さらに、泣いている緋色の頭を撫でる。
「ありがとな、夏代」
「え?」
 緋色は顔を上げた。
「夏代のおかげで桐崎の闇は封印できそうだ」
 緋色の目に、桐崎を覆っていた闇はもう視えない。
「『ロック』」
 カチャリ。
 蒼眞は鍵をひねった。いつかと同じく、世界に響いた音。
 桐崎は気を失い、倒れた。
「『アンロック』」
 カチャリ。
 蒼眞は鍵を虚空に伸ばし、もう一度ひねった。すると、空間を覆っていたなにかが消滅した。
「さて、次は……」
 そこで蒼眞は舞依の方を向く。蒼い鍵を彼女に突きつけた。
「なにすん……?」
 カチャリ。
「『ロック』」
 一瞬の間に蒼眞は舞依の額に鍵をさし、それを回した。桐崎と同じく舞依は気絶する。
「ちょ、ちょっと氷鉤くん?」
 なにが起きているのかさっぱりわからず、緋色は目を丸くすることしかできなかった。戸惑いはさらに増す。
「よし、オレはやることはやった。あとはあいつに任せるか」
 蒼眞は手櫛で髪をいつものスタイルに戻すと、目を閉じた。
「あの……氷鉤くん?」
 緋色は蒼眞の顔を覗き込む。
「なんですか? 夏代さん」
「!」
 次に蒼眞が目を開けた時、彼はいつもの様子に戻っていた。前髪はだらしなく垂れているし、瞳もさっきまでの鋭さは皆無だ。
「詳しい説明をしたいところですが、今は清谷さん達を保健室に連れていきましょう。それに授業に出なくてはいけませんしね」
 蒼眞はポケットからメガネを取り出し、装着した。それで完全に普段の氷鉤蒼眞へと戻る。
「う、うん……」
 訳も分からないまま、とりあえず緋色は頷いた。
 それから二人は舞依と桐崎を保健室に連れていった。保健室の先生に蒼眞が鍵をさし、一部の記憶を消去。最初から舞依と桐崎が保健室のベッドにいたことにした。
 その後は教室に帰還。先生に、舞依と桐崎が体調を崩したので保健室に連れていっていたと、緋色と蒼眞は別々に告げた。
 ようやく授業に戻るも、緋色はまったく集中できない。先刻目の前で起きた様々なことで頭がいっぱいになっているのだ。ついつい蒼眞の方を何回も見てしまう。彼はいたって普通に授業を受けていた。
 窓の向こう、曇っていた空は再び青を取り戻している。対して、緋色の心には雲が増えていった。
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えええええっ?

おおお、蒼眞くんカッコいい~!!!
とか思ってたら、あれ? あいつ?
じゃ、あいつじゃない君は誰???

蒼眞くんの中にもなんかいるんですかいな?
いや、それはそれで嬉しい。
何しろ、そういう設定はfateは大好きです。

それにしても、舞依ちゃんは何度も災難なことだ…。

fateさんへ

あっりがとうございますっ!!
fateさんの感想を読むたびに「うひょ~!」となっているゆない。ですww
本当に読んでくださって感謝しております!

蒼眞の秘密についても今後明かされます!
お楽しみに!

いつもいつもありがとうございますね!
プロフィール
ゆない。と申します。

ゆない。

Author:ゆない。
ゆない。です! 作家を目指してます!

Author:ワキオ
ゆない。と共に作家を目指しています!

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