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『カギビト』36(ライトノベル)


 舞依は教室の窓から空を眺めていた。青い空は、灰色の雲を散らばせ始めている。
 舞依は緋色が心配でしょうがなかった。まだ十分くらいしか経っていないのに、緋色の帰りが遅い、と不安になってしまう。
「清谷のやつさっきからぼーっとして、やっぱり緋色ちゃんのこと気にしてんじゃん」
「みたいだね」
 佐山は首肯してから、両眼を鋭くした。
「氷鉤のやつ……いったい緋色ちゃんにどんな話をしてるんだろう?」
 木塚は佐山のその言葉に頷きかけるが、首をひねった。
「いや、呼び出したのは緋色ちゃんの方だろ? それを言うなら、『緋色ちゃん、氷鉤になに話してんだ?』だろ?」
「…………」
 佐山は黙っていた。ずっと虚空を眺めている。
「おい、春雅……って怖っ! おまっ……その顔、怖っ!」
 親友の見たことない顔に驚く木塚。大袈裟にのけ反った。それでようやく佐山は木塚の方を向く。
「え? そんな怖い顔してた?」
「してたしてた。氷鉤への憎悪が溢れてた」
「ふぅん。清谷さんとどっちが怖かった?」
 いたずらっぽく笑う佐山。木塚も似たような表情になる。
「そりゃ清谷だ」
 二人は笑いあった。
 木塚と佐山の会話も、今の舞依の耳には届いていなかった。
「緋色……」
 舞依が呟いた時、空を暗雲が覆い始めた。

「次は本当に本当の話?」
 緋色はジトッとした目を蒼眞に向ける。
「はい、本当の話です」
 長い前髪を揺らし、蒼眞は頷いた。
「じゃあさっそく話して?」
 その前に、と蒼眞。
「立ち話もなんですから、あそこに座りませんか?」
 蒼眞が指差した先は屋上にある手すりの下、少し出っ張っている石段だ。
「そうだね」
 緋色の返事を聞き、蒼眞は石段に腰を下ろす。遅れて彼とやや距離をとり、緋色も座った。
 少し冷たい風が緋色の髪をくすぐる。
「最初に、あなたが黒いモヤモヤと呼ぶものについて教えます」
「…………」
 緋色は知らないうちに拳を握っていた。
「その黒い靄は闇です」
 緋色の全身がザワリと騒いだ。
 闇? 闇って……?
 そう訊きたくても喉から声は出なかった。僅かに吐息が漏れただけだ。
「人の闇です。それが黒い靄として視えるんです」
 蒼眞は緋色には構わず話を進めていく。涼やかな声は、いつもより輪郭がくっきりとしていた。
「人が罪を犯すのはなぜだと思います?」
 この話運びにももう緋色はいい加減慣れた。いちいち戸惑ったりはしない。
「やっぱり悪い人だからじゃないの?」
「悪い人……確かにそうです。ですがそれは結果論でしかありません」
「結果論?」
「罪を犯したのだから悪い人。では罪を犯していなかったらどうですか? それでもその人は悪い人でしょうか?」
「それは……」
 思考するため、緋色は空を見た。青い空は今や少ししか見えなくなっている。
「ん~……わかんない」
 結局緋色は答えを出せなかった。なんとなく情けなくて俯いてしまう。
「そうですよ、夏代さん」
「え?」
「それが正しい答えです。その人が悪い人かどうかなんてわかりません。逆に言えば、全ての人が悪い人になる可能性があるんです」
「…………」
 蒼眞の言葉には妙な説得力があった。緋色は押し黙る。
「人は誰しも心に闇を持っています。人によって種類、形は様々ですが、確実に闇は存在しているんです。では最初の質問に戻ります。なぜ、人は罪を犯すのか? それは闇が表に出るからです。なにかのきっかけで、闇が滲み出てくるんですよ」
 蒼眞は立ち上がり、両手を上空に伸ばした。空には鈍色の雲がドロドロと泳いでいる。
「この空を覆う暗雲のように、闇はその人の全身を包みます」
 流れる雲を眺めながら、緋色は一つの答えを導き出した。だが、その考えを口に出すのが怖い。
「つまり……」
 緋色が言い淀んでいると、蒼眞が告げた。
「はい。夏代さんが視た黒いモヤモヤは人の闇です」
 今まで視てきたのは闇……。闇は放っておくと溢れ出す。溢れ出したら罪を犯す。だとしたら……だとしたら……。
「氷鉤くんっ、あのね……!」
 蒼眞は再び鍵を取り出し、緋色に突きつける。
「わかってます。また誰かの闇を視たんですね?」
「! そ、そう! だから早くしないと! 彼の闇はかなり濃く視えたよ!」
「彼……今回は男性ですか……」
 蒼眞は歩き出す。鍵を手の平で跳ねさせながら、屋上の出口へと向かう。
「夏代さん、次はこの鍵について説明します。しかし、これの説明は少々厄介です。ですから論より証拠、百聞は一見にしかず、全てお見せしますよ」
「うん。あの……」
 緋色は蒼眞の隣に並ぶ。
「なんですか?」
「氷鉤くんは何者なの?」
 変な質問だとは思う。自分のクラスメイトに何者かと訊くというのは。だが緋色は訊かざるを得なかった。それほどまでに氷鉤蒼眞という人物は不思議なのだ。
「それも……これからわかりますよ。今は『鍵を知る者』とだけ言っておきます」
「鍵を……知る者」
 緋色と蒼眞は屋上の扉を開けた。
 空を覆う灰色は、さらに増す。雨が降り始め、コンクリートに染みをつけた。

 学校中に昼休み終了を告げる鐘が響いた。
「あたしやっぱり見てくるわ!」
 バンと机を叩き、舞依は立ち上がった。男のようにドカドカと歩いていく。
「清谷っ、俺も!」
「僕もっ!」
 慌てて席を立つ木塚と佐山。舞依は振り向き、彼らを睨みつける。
「あんた達は待ってなさい!」
「「は、はいぃっ!」」
 舞依は男二人を一喝。ついてくることを禁じた。
「今日はいつにも増して……」
「怖いね……」
 呟く木塚と佐山は直立不動。その場で硬直していた。
 舞依が出たのを確認し、二人はため息。ややあってから着席した。
 彼らは気づかなかった。舞依のすぐ後に、もう一人教室を出た人物がいたことに……。

 命の終わり。
 溢れ出す血液。
 永遠に閉ざされる瞳。
 もうすぐ見られる。もうすぐ殺(や)れる。もうすぐ解体(バラ)せる。
 解体。
 解体。解体。
 解体。解体。解体。
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言い切りましたね蒼眞くん!
見える者と祓う者。
そんな図になりますね~、もしかして良いコンビになるのではっ?

闇なんて昔もあったと思うけど、それを収める方法も祓う人もきっちりあったんだろうか。
現代社会は、化学に頼り過ぎて、目に見えるもの、数値化出来るものしか信じなくなったから、むしろ、そういう勢力は力を持ってしまったのかも知れませんな~

でも、蒼眞くんみたいな生業の人も、そういう血筋も脈々と受け継がれtいるものと思われるから。
ちょっとそんなハナシをfateも描きかけて投げております(--;

fateさんへ

ありがとうございます!!
fateさんのおかげでこのブログはもっています!w
いつもいつも読んでくださり、本当に感謝しています!

わ~い! 待ってました! fateさんの闇講座! 毎回楽しませてもらってます!
ゆない。もその意見には賛同します! きっと裏ではそういう血筋も残ってますよね!

fateさんのその作品、読んでみたいです!!
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