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『カギビト』35(ライトノベル)


「ごめんね、いきなり呼び出したりして」
 緋色は頭を下げた。
「いえ、大丈夫ですよ」
 蒼眞は手を振って応えた。
 屋上、給水塔裏のひっそりとした場所に緋色と蒼眞はいた。微妙に長い距離をあけて向かい合っている。
「それでね、用事っていうのは……」
 緋色は一旦言葉を切る。深呼吸してから静かに口を開いた。
「氷鉤くんはなにを知ってるの?」
「はい……?」
 よく見てなければわからないくらい僅かに、蒼眞の瞳が揺れた。それで緋色は確信する。やはり氷鉤蒼眞はなにか知っている、と。
「なんのことですか?」
「わたしね、舞依ちゃんの時も、楽美さんの時も不思議なことを経験したの」
 緋色は蒼眞の質問は無視し、話を続ける。
「舞依ちゃんの時は、わたしと舞依ちゃんの記憶が一部なくなった。その時、わたし達の頭に浮かんだのはなぜか 氷鉤くんのことだった。なんとなく氷鉤くんのことが気になる程度だけどね」
 蒼眞はなにも言わない。質問もせず、ただ黙って話を聞いていた。双眸はいつもに比べ、幾分か鋭い。
「楽美さんの時はもっとはっきりと不思議な体験をした。氷鉤くんとわたしがトイレに向かってたら、わたしは見えない壁みたいなもののせいで進めなくなったんだ」
 ズイッと緋色は一歩踏み出す。
「両方とも氷鉤くんが関係してる。だから氷鉤くんはこの不思議なことをなにか知ってるはずだよ」
「…………」
 しばしの静寂。風の音しか聞こえない。
 緋色はまた一歩前進する。
「でも、一番氷鉤くんに訊きたいのはそこじゃないんだ」
「?」
 再び風が吹き、緋色の髪はその中で踊った。
「わたしが一番知りたいのは、舞依ちゃんと楽美さんに見えたあの黒いモヤモヤ。その正体」
 緋色は不思議な体験をする前、舞依と楽美の体を黒い靄が覆っているのを見ていた。夜よりも暗いそれはとても不快な感じを見る者に与える。絶対に悪いものだと容易に理解できるのだ。
「わたしは小さい頃から『ソレ』を見ることができた。そして『ソレ』がある人はみんな、悩んでたり、苦しんでたり、悲しんでたりしてた。だからわたしは黒いモヤモヤを見かけると、すぐにその人に話を聞いてあげたんだ。その人の悩みが解決した時、モヤモヤは消えた」
 緋色が舞依の悩みを知ることができたのはこれが理由だった。ちなみに緋色はこの事実を誰にも話していない。今まで話しても誰も信じてくれなかったからだ。舞依にもこのことは秘密にしてある。
「あの……ごめん。いきなり変なこと言って……。でも氷鉤くんならなにかヒントを……鍵になるようなことを知ってる気がしたから……」
 緋色は目を伏せる。いきなり勝手なことを言ってしまい、迷惑だったと反省した。冷静になろうと再び深呼吸をする。
「……ますよ」
「え?」
 だから緋色は蒼眞の声を聞き逃してしまった。蒼眞を見つめ、彼の言葉に今一度集中する。
「鍵を知ってますよ」
「!」
 蒼眞ははっきりとそう告げた。鍵を知っていると、そう言ったのだ。
 緋色の心拍数が上昇、心臓が早鐘のように鳴った。昔から気になっていたことがついにわかるかもしれないと、緋色は緊張と興奮を同時に感じる。
「それで、どんなことを知ってるの?」
「ですから……」
「だから?」
「鍵を知ってるんです」
「へ……?」
 緋色は声を激しく裏返した。蒼眞の言葉、その真意が理解できない。
「あのね、氷鉤くん。だからその鍵の内容を……」
 蒼眞は片手を突き出して緋色の言葉を遮った。もう一方の手は制服の内ポケットに入れる。
「これです」
 蒼眞が取り出したのは空と同じくらい蒼い鍵だった。手の平サイズで、取っ手の部分には紋様が刻まれている。
「綺麗な鍵だね……」
 凝った造形の西洋風の鍵に、緋色は見とれてしまった。古そうな鍵なのに全然色褪せていない蒼が鮮やかだ。
でも、と緋色。
「これがなんなの?」
 誰でもするだろう質問を、やはり緋色もした。この鍵のことも、この鍵を出した意味もわからない。
「夏代さんはダークマターって知ってますか?」
 まるで話が見えず、緋色の混乱はさらに増した。蒼眞の言葉にはなんら脈絡がない。
「だーく……またー……?」
 首を傾げた。そんな言葉は聞いたことがないのだ。だから蒼眞はゲームの話でもしているのかと勝手に解釈する。
「ごめんね、わたしゲームの話は……」
「暗黒物質とも言います」
「……えと……だから……」
「ダークマターは宇宙空間に存在しています。いえ、存在するとされています」
 蒼眞は聞く耳持たず、自分の話を続ける。緋色はもう訊き返すのもバカらしくなり、とりあえず話を聞くことにした。
「ダークマターは宇宙の全質量の30%を占めると考えられている未知の物質です。銀河などの運動から理論的にその存在が予想されるんです」
「…………?」
 緋色の目が点になる。理解不能とはまさにこのことだ。
「少し難しかったですね。簡単に説明すると、例えば……」
 蒼眞は緋色の髪を指差した。
「夏代さんのその綺麗な髪はなんで揺れてるんだと思いますか?」
 『綺麗』という単語に緋色は若干喜ぶも、すぐにムッと頬を膨らませた。それくらいならさすがにわかる。
「風のせいでしょ」
「はい、そうです。なぜ髪が揺れるのか? 髪を揺らすなにか、つまり風があるからです。ダークマターもこれと同じ考えですよ。そこになにかがないと説明できないことが宇宙にはあります。しかし、それがなにかはわからない。そこでその物質をダークマターと名付けたんですね。同じようにダークエネルギーというものもあります」
「はー」
 口をぽかんと開け、緋色は感嘆した。話の内容もそうだが、なによりも蒼眞がこんなに話すことに対してだ。今まで蒼眞がこれ程喋っているのを見たことがない。緋色にとって小さな発見だった。
「そこでこの鍵です」
 蒼眞はもう一度蒼い鍵を掲げる。取っ手の部分が空を写し、鍵はさらにその蒼を強めた。
「この鍵はそのダークマターを使っています」
「えぇっ?」
 思わず緋色は後退した。体を傾けたまま固まる。
 蒼眞の瞳が揺れ、一瞬だけ優しい表情を作った。
「すいません、嘘です」
「…………え?」
 緋色の目がまたも点になる。
「氷鉤くんってさ……」
「はい、なんですか?」
「変……」
「よく言われます」
 頬をポリポリかきながら、蒼眞は頷いた
「ここからは本当のことを話します。夏代さんが視(み)た黒いモヤモヤの正体と、この鍵について」
 蒼眞は微笑した。その笑顔に緋色は『クール』を見る。蒼眞の顔は決して悪くはないと、改めて理解した。
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No title

「氷鉤くんってさ……」
「はい、なんですか?」
「変……」
「よく言われます」

↑笑いました。
いや、良いなぁ、この淡々とした空気。
これは、きっと緋色ちゃんの持ち味でもあるんだろう。
なんというか、一般の価値観に左右されず、何か確固たる己を信じている。
この二人はどこか似てるかも知れませんね。
能力者…と表現して良いのか分かりませんが、特殊であること、つまり他の人が理解し得ない世界を体験しているから、目に見えることがすべてではないという冷静さと素直さ、そういう柔軟な心のありようが。
さすが、緋色ちゃん。

そして、ダークマター。
良いですね、この言葉。
どうされましたか? と医者が聞くセリフにmatterが使われること、ありますね。
なんとなく、そんな感じと、医学的、宇宙的な裏付け。
一気に生々しいリアリティに突入です。
緋色ちゃんと一緒に次回を楽しみにしております(^^)

No title

面白いですね。

続きが気になります。本当ですよ?ww

小説には、その書き手の性格みたいなものが表れるのだと私は思って

います。物語を書くということは、そこには無い未知の世界を創るという

とであり、その世界の神にならなくてはいけないのだと、ある本に書い

てあったのを覚えています。ゆない。さんの小説が面白いのは、ゆな

い。さんが素敵な世界を創れる神様だからではないでしょうか?ww

fateさんへ

こちらにもコメントをいただけて、ゆない。は感無量です!!

緋色のことを気に入ってくださって、ありがとうございます!
とっても嬉しいです!!

いつもながらfateさんの分析力にはびっくりします。さすがはベテラン作家さんです!
いつも読んでくださって、本当に感謝しています!

扇屋さんへ

な、ななな、なんと嬉しいお言葉でしょうか!
そんなもったいないお言葉をいただけて、ゆない。は号泣です!!

本当にありがとうございます!
このコメントをパワーにし、さらに頑張って執筆していきます!

『カギビト』を読んでくださっていること、感謝感謝です!!
プロフィール
ゆない。と申します。

ゆない。

Author:ゆない。
ゆない。です! 作家を目指してます!

Author:ワキオ
ゆない。と共に作家を目指しています!

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