FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『カギビト』27(ライトノベル)


 そして楽美の胸は感動で満たされた。全身がザワザワと騒ぎ、涙は止まることがなかった。蒼眞の歌詞に込められた想いは、確かに楽美の耳に届き、心に届いたのだ。
 ギターを置いた蒼眞はヘッドフォンを装着し、ステージを飛び降りた。胸ポケットから出した蒼い鍵を握り、一直線に楽美を目指す。
 他のメンバーは後片付けをしているので蒼眞を気に止めなかった。緋色もまだ心が震え、蒼眞など気にしている余裕がなかった。
 ホール内は暗く、蒼眞と楽美を確認することはできない。蒼眞が空間に鍵をかけたからだ。
 シャカシャカシャカシャカ。
 蒼い鍵が楽美の額に入っていく。彼女を包んでいた闇を突き破り、心の奥底へ。
 蒼眞はMP3を停止させた。すると、彼の表情に変化が訪れる。鋭かった瞳は穏やかに、微笑んでいた口元は落ち着きを取り戻した。
「楽美さん、あなたはボクらのことを天才と言いました。でもそれは間違いです」
 淡々と言葉を紡ぐ蒼眞の声は心地よい。すんなりと楽美の耳に入っていく。
「天才なんていません。ただみんな音楽が好きなだけです。好きだから、楽しいから、だから音楽をやるんです。それだけなんですよ」
「で、でも才能によって優劣が生まれるでしょ? だったら『劣』の人はどうすればいいの? いくら努力しても埋まらない距離はどうすればいいの?」
「優劣なんてありません。距離なんてないんです」
「あるよっ! いつもわたし達は順位をつけられるんだっ! いつも人と比較されるんだっ!」
「順位をつけているのは!」
 突然の蒼眞の大声に、楽美は硬直。見開いた目で蒼眞を見る。
「いつも順位をつけていたのは、人と比較していたのは誰ですか?」
「それは……君達天才が……」
「違います! 順位をつけていたのは楽美さんです!」
「!」
「あなたは最初から自分は天才じゃないからと理由をつけて、あきらめていただけです」
「だって……わたしは演奏も下手だし……」
「それが間違いなんです。技術が上手い下手ではありません。大事なのは自分の音楽ができるかどうかです」
「自分の……音楽?」
「そうです。ボクにはボクの、楽美さんには楽美さんの音楽があるんです」
「わたしの……?」
 楽美は目を閉じる。自分の音楽とはなにかと、考えを巡らせる。そして答えを導き出した。
「楽しむ……こと……?」
 楽美の心に流れたメロディは今までの自分だった。ただがむしゃらに弾いてきたベース。なぜそんなに頑張ったのか。それはもちろん上手くなるためだ。上手くなって、できればプロになるためだ。
 でも本当はそうではなかった。楽しいからだ。
 昔は音楽に触れることが楽しかった。だがいつからか苦痛でしかなくなっていた。それは一番大事なことを忘れて、自分の殻に閉じ込もっていたからだ。殻を、闇を作ったのは楽美自信だったのだ。
「わたしは……音楽が……好き……」
 シャカシャカシャカシャカ。
 いつの間にか蒼眞のヘッドフォンから再び音漏れがしていた。連れて、彼の表情も鋭くなる。
「それに気づいたならもう大丈夫だな。『ロック』」
 カチャリ。
 鍵が回された。
 楽美が闇に蓋をして、蒼眞がその蓋に鍵をしたのだ。もう楽美の闇が目覚めることはない。
「あれ? わたし……」
 蒼眞はついでに楽美の記憶も『ロック』しておいた。ここでの出来事は全て封印したのだ。それは楽美のためであり、また自分のためでもあった。
「『アンロック』」
 続けて蒼眞は空間にかけていた鍵を解除した。二人の周りを覆っていた膜が消滅する。これで緋色達にもこちらの存在が認識できるようになった。
「あ、あの……蒼眞くん……?」
 楽美は自分がなにをしていたのか思い出せない。なぜAホールにいるのかもわからなかった。
「なんですか?」
 振り返った蒼眞は普段の蒼眞だった。『クール』ではなく、平常時の彼だ。いつものように首にヘッドフォンをかけている。
「わたしはなにしてたんだっけ?」
 楽美は頬をポリポリとかいた。そんな様子に蒼眞は微笑む。
「楽美さん、大丈夫ですか? ボク達の新曲『loud sound surround』を聴きにきたんじゃないですか」
 楽美はポンと両手を、ではなく蒼眞の頭を叩いた。
「あ! そ、そうだったね! うん、いい曲だったよ~。すごいパワフルな曲だね」
 興奮気味の楽美は蒼眞の頭をバシバシ叩く。
「……さんのために作ったんですよ……」
「え? なに?」
 蒼眞の呟きは楽美には聞こえなかった。蒼眞は微笑む。
「さ、早くメンバーのところに行きましょう。みんな楽美さんの感想を待ってますよ?」
「うん、そだね」
 楽美の心は妙に晴れ晴れとしていた。ここからが本当のスタートのような、そんな気分だ。
「あ、楽美さ~ん!」
 ステージ上から緋色が楽美に手を振った。それを合図に楽美は走り出した。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

こんばんは!

御体の具合は大丈夫でしょうか><
きっと年末ジャンボも当たってくれますよ!(笑)

そして、途中からで心苦しいのですが、「カギビト」読ませていただきました!なるほど、カギビトって、そういう能力者ですか・・・!!

なかなか読めずに申し訳ありまっせん!!
(小説を読むのがものすごく遅いのです・・・ヽ(´Д`;)ノひとつの小説に一ヶ月かかったり・・・^^;)
応援ポチっと!

え、、、


そぉですっ!

音楽は音を楽しむって書くくらいですから

楽美ちゃんが元に戻ってよかったぁ。


、、、て。
蒼眞くん誰のためにつくったんだろ?
微笑む蒼眞くんがなんだか切ないです(/_\;)

なによしさんへ

いらっしゃいませ! いつもありがとうございます!
おかげさまで、ようやく体調はよくなってきました!
あとは年末ジャンボが当たるのを待つばかりです!w

いえいえ、小説はゆっくりでいいですよ! というか、読まなくてもいいです!w
なによしさんも忙しいでしょうから、なによしさんのペースで、こちらにいらしてくだされば結構ですよん!

萌瑠さんへ

『カギビト』の連載を、ずっと読み続けてくださり、ありがとうございます!!
また、楽美のことを気にしてくれて、感謝です!

わかりづらくて申し訳ないのですが、あの曲は楽美さんのために作った曲だったりします。

これからも『カギビト』をよろしくお願いします!

そういう‘闇’の封じ方

温かいものを流し込んで氷を溶かすように。
悪意とか闇とかって、冷たくて、流れないモノ。滞っている物だから、基本、あっためれば氷解するんだよね。
 
さすが、蒼眞くん。やっぱりカッコいいなぁ!
蒼眞くんってゆない。さんがモデル??

fateさんへ

連載を読んでくださってありがとうございます!
いつも感謝しています!

さすが闇に詳しいfateさん! 闇を氷みたいなものと表現するとは、実にわかりやすいですね! ゆない。も同じ意見です!

ち、違いますよ!w 蒼眞はゆない。の理想です!
あんなふうになりたいなぁ……って思ってるんですww
プロフィール
ゆない。と申します。

ゆない。

Author:ゆない。
ゆない。です! 作家を目指してます!

Author:ワキオ
ゆない。と共に作家を目指しています!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
読者様カウンター
訪問ありがとうございます!
ランキング
ゆない。のランキングです。

FC2Blog Ranking

ブロとも一覧
ゆない。のブロともですよ!

kitutukiブログ~みんなの趣味日記~

Stories of fate

君の知らない玉手箱

草を食む時間 ~The Grazing Time~

ajggjgjgdrikdikfff

月と氷

ようこそここへ!

夢の島を遊ぶ

あかねいろ*

かき氷2色スペシャル

カミツレが咲く街で

空のぺえじ

狂原さんのクルクル日記
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
4296位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
オリジナル小説
1078位
アクセスランキングを見る>>
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ゆない。がオススメするブログです! こちらもぜひ!
ブロとも申請フォーム
皆さんブロともになってください!

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。