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『カギビト』22(ライトノベル)


 呼吸ができない。震えが収まらない。
「や……やめて……」
 世名は足をもつれさせて倒れた。あいた空間を凶刃が通り過ぎる。
「あれぇ? はずしちゃった」
 楽美はケラケラと笑う。今までの彼女からは考えられないほど邪悪な笑みだ。右手に握っているナイフが恐怖に拍車をかける。
「な、なんでこんなことするんですのっ?」
 世名は必死に叫んだ。訪れた理不尽を否定するように。目の前の現実が信じられないように。
 楽美は一瞬で表情をなくし、世名の髪を乱暴に掴む。
「なんで? そんなの君達にはわからないよ。君達みたいな天才にはねっ!」
「あぅ……!」
 世名の頭は床に叩きつけられた。ホール内に鈍い音が響く。
「痛い? でも、わたしが受けた苦痛はこんなものじゃないんだよっ!」
「っ……!」
 もう一度世名の頭は叩きつけられた。額の皮膚が裂け、赤黒い血が流れ出る。それとともに頬を濡らす透明の液体。
「君達天才がいるせいでわたしは……わたしはいつも虐げられてきたっ! 絶望を味わってきたっ!」
 硬いコンクリートの床に、世名の額は何度も叩きつけられた。やがて床にも赤い染みが広がる。
「だからわたしは君達に復讐をする。同じ苦痛を、悲哀を、絶望を与える!」
 裏返った声はもはや奇声。狂人となった楽美はナイフを振り上げる。
「い、いや……」
 世名はもう叫ぶことさえできなくなっていた。脱力し、身体はなにも感じない。額の痛みと、絶望で縁取られた恐怖以外は……。
「そこまでだ」
 聞こえたのは男性の声。世名も楽美も聞き慣れたものだった。それとともに、聞こえる音がもう一つ。
 シャカシャカシャカシャカ。
「ナイフか。最近の女の子は物騒だな」
 楽美からナイフを奪い、クルクルと回しながら氷鉤蒼眞は感慨深く頷いた。いつも通りヘッドフォンをつけているが、それ以外はまるで違う。ダサい髪型はスタイリッシュに整えられ、メガネをはずしている姿は蒼眞であり蒼眞でなかった。特に瞳は段違いに鋭い。
「そ、蒼眞っ?」
 叫ぶ世名の声は少し嗄れていた。彼女の混乱はさらに高まる。
 楽美は動かない。表情も変えずに、ただ蒼眞を見ている。
「さて楽美さん、その闇……」
 蒼眞はナイフを投げ捨てた。ヘッドフォンをはずし、手を胸ポケットに入れる。ヘッドフォンからは激しい曲が流れている。
「オレが『ロック』してやるよ」
 次の瞬間手に握られていたのは蒼い鍵。宝箱でも開けられそうな古めかしいものだ。
 蒼眞はそれで楽美の額を指す。徐々に押し出していく。
 蒼い鍵が楽美の額についた。
 そこで楽美の表情に変化が訪れる。口の端が異常につり上がった。
「ちょうどよかった。手間が省けたよ。わたしが一番憎んでるのは君だよ。氷鉤蒼眞っ!」
 楽美は蒼眞の手を弾き、彼に蹴りを繰り出す。
「ちっ……。またかよ。気の強い娘は歓迎だが、連続はさすがに面倒だな」
 蒼眞はバックステップ。楽美と距離を取る。鍵をもう一度ちゃんと握り直した。
「君が一番の天才。だったら君が一番の敵。最も復讐するべき相手だっ!」
 楽美は落ちていたナイフを拾い、蒼眞に襲いかかる。
「なるほど。それがあんたの闇か」
 軽やかな身のこなしで刃を回避。蒼眞は楽美を指差した。
「なら、『ロック』の前にやらなきゃいけないロックがあるな」
 蒼眞は楽美の心の闇を的確に見抜いていた。先刻、蒼い鍵が楽美の額に触れた時、彼女の心を覗いたのだ。
「ああぁぁぁ!」
 ナイフを前に突き出し、楽美は蒼眞に迫る。
 金属音が鳴った。ナイフと蒼眞の鍵が激突したのだ。
「とりあえず楽美さんには、また観客になってもらうぜ?」
 蒼眞はナイフを素早く払い飛ばしてから、流れるような動きで鍵を押し出す。楽美の右脚、太ももの辺りに蒼い鍵が吸い込まれた。
 カチャリ。
 蒼眞は鍵をひねった。
「えっ……?」
 楽美の右脚はまるで床に根をはったかのように動かなくなった。まっすぐ突き立ったままだ。
「しばらくそうしてな」
 楽美にそう告げてから、蒼眞は倒れている世名を立たせてやった。震えている肩を抱き、耳元に囁きかける。
「ごめんな、痛かったろ?」
 甘い吐息に、世名は全身が麻痺したかのような感覚に陥る。顔もどんどん赤くなった。
「しばらく寝ててくれ」
 蒼眞は世名の額に鍵をさしこみ、ゆっくりと回す。
 カチャリ。
 乾いた音とともに、力の抜けた世名は蒼眞に倒れ込んだ。額にもう傷はなく、彼女はすぅすぅと寝息をたてていた。
「さてと……」
 蒼眞は世名をお姫様抱っこし、ステージへと進んで行く。
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ぅぎゅぁ

蒼眞くん、、、かっくぃぃです

、、、世名さんが羨ましすぎる////
お姫様抱っこぉぉぉ(笑)

萌瑠さんへ

こちらにもコメントありがとうございます!
というか、いつもいつもコメントしてくださり、感謝です!
実際に会って感謝したいくらいですよ!!w

もうすぐ、ゆない。の曲がまた出ます。お楽しみ(?)に!
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ゆない。です! 作家を目指してます!

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