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『カギビト』18(ライトノベル)

 二人はステージの左右にある扉の一つに入る。短い廊下を進み、現れた黒いドアを開けた。ドアには『控え室』と記してあった。
 中には『コバルトブルー』のメンバーが三人いた。少なくとも緋色にはそう思えた。
 シャカシャカシャカシャカ。
 部屋には男女合わせて四人がいて、灰色の長テーブルを囲んでいた。『お嬢』と『姫』が並んで座り、その向かいに『ナイト』と蒼眞という配置だ。
「やっほー!」
 お気楽な調子で楽美は挨拶。片手を上げた。
「あら楽美さん、こんばんはですわ」
 同じく片手を上げて応えたのは『姫』だ。ウェーブしている金髪がなびく。
「ああ楽美くん。君は相変わらず美しい……なんとっ? 隣の君も負けず劣らず素敵だ!」
 前髪をかき上げながら、『ナイト』は微笑んだ。
「こ、こんばんは」
 控えめに挨拶したのは『お嬢』だ。人と話をすると緊張してしまう性格なのか、対応がたどたどしい。
 シャカシャカシャカシャカ。
 唯一、楽美に反応しない青年がいた。ヘッドフォンをつけて音楽を聴いている。電車内だったら確実に文句を言われるほどの大音量だ。
「おい、無視するなよ~」
 楽美は、そのメガネの青年を叩いた。
 やっと気づいた青年は手元のMP3を操作してからヘッドフォンをはずす。
「すいません楽美さん。気づきませんでした」
 口調は普段と同じ敬語。前髪をだらしなく垂らしている青年は蒼眞だ。今の彼は『クール』ではなく、あくまで氷鉤蒼眞だった。
「どうしたんですか?」
「いや、まぁね」
 楽美は頬をかき、それから緋色を前に押し出した。
「緋色ちゃんが『コバルトブルー』の舞台裏を覗きたいなんていうからさ」
「えっ?」
 先刻までの話と違うので、緋色は戸惑いながら楽美に視線を投げかける。楽美はにっこりと笑ってから目を逸らした。
「なるほど。つまりそこのハニーはこの僕に会いにきたと、そういうことだね?」
 右手を胸に乗せ、左手を前に伸ばしながら『ナイト』、正則は歩み出た。
「いいえ、それはありませんわ」
 すかさず聞こえた冷めた声は『姫』、世名のものだ。彼女は正則の首を掴み、引っ張る。
「いたたたっ……痛い! 世名くん、女性はもっとおしとやかにしたまえ!」
「余計なお世話ですわ。女性こそたくましくないといけませんもの」
 そう言って世名はさらに力を強める。
「あだだだだ……世名くん……僕が悪かった! 君をさしおいて……痛い痛いっ!」
「そういう態度がいけないって言ってるんですの!」
 正則の悲鳴はその後しばらく続いた。
「ふふ」
 それは毎度の風景なのだろうか、愛凜は微笑していた。さらに楽美と目を合わせてからもう一度笑った。
「相変わらずだねぇ、正則くんは……」
「はい」
 世名と正則の一悶着の間、場の雰囲気はとても和やかだった。
 変な人達……。
 そんな様子に、緋色もいつの間にか笑ってしまう。堪えきれずにクスクスと。なぜなら楽しそうなのだ。みんながみんな楽しそうなのだ。
「どうでしたか?」
「え?」
 気づかぬうちに緋色の横には蒼眞がいた。最初、緋色は質問の意味が理解できなかった。
「夏代さんがいたとは少し驚きました。しかも楽美さんと知り合いだったんですね。ボク達のライブどうでしたか?」
 緋色はハッとする。
「あ、うん。すごくよかったよ! わたし感動しちゃったもん!」
 言ってから気づく。
 わたしなに恥ずかしいこと言ってんだろ?
 意識してない蒼眞だからこそ、思ったことをそのまま伝えてしまった。
「そうですか、それはよかったです」
 しかし蒼眞は、慌てる緋色など全く意に介さなかった。一瞬微笑を浮かべてからすぐにいつもの無愛想に戻る。その態度はこれでその話題が終わったことを意味していた。
 緋色は独りで勝手に焦っていたことを悟り、再び赤面した。
 と、そんな緋色の前に楽美がズイッと現れた。普段より派手な笑顔だ。今にも爆発しそうに唇をわなわなさせている。
「違います!」
 先に緋色は否定しておいた。こうでもしないと楽美の勘違い攻撃がまた始まってしまう。
「いや~よかったね。愛する人と話せて。そりゃ顔も赤くなっちゃうよね」
 遅かった。すでに楽美は意地悪モードに入ってしまっていたのだ。
「あら?」
「おお……なんと嘆かわしいことだ……」
「そ、そうなんですか?」
 世名、正則、愛凜も会話に参加。みんなこの話題に興味津津のようだ。蒼眞だけがヘッドフォンをつけ、蚊帳の外。再び音漏れを響かせている。
 まずいよ、このままじゃ……。
「あ、あの……」
「緋色ちゃんは蒼眞くんが好きなんだよー!」
 またもや遅かった。『緋色が蒼眞を好き』はもう完全に決定事項になってしまった。
「蒼眞は渡しませんわっ!」
「また蒼眞くんか……。かなわないな……」
「え、えと……あの……氷鉤先輩は……わたし……」
 世名は緋色を指さし、敵意表明。
 正則は肩を落とし、敗北宣言。
 愛凜は頬を染め、愛らしさを表現。
 と三者三様の反応だ。
 楽美はというと、
「ふふふふ」
 お笑い番組でも観ているかのように笑顔だった。
「みなさん落ち着いて下さい。わたしは別に氷鉤くんのこと好きじゃないですからっ」
 緋色は必死に説明するも、彼らの態度に変化はない。というよりも全員緋色の言葉など聞こえていなかった。
「蒼眞はわたくしが心に決めた人なんです!」
 世名の指は緋色の額を突き刺すくらいに近い。
「だから違うんですってっ。……?」
 緋色のスカートの裾を引っ張ったのは愛凜だ。控えめに掴んでいるが、その手には力が入っていた。
「だ、ダメ……です……」
 か細い声の奥にも決意が感じられる。
 そんな二人の様子で緋色は嫌でも理解できた。蒼眞が『コバルトブルー』にとってどれだけ大切な存在かが。メンバー達にどれだけ好かれているかが。約一名好いてないメンバーがいるが。
「くそう……。蒼眞くんさえいなければ僕がモテモテなのに……」
 部屋の壁にもたれかかりぶつぶつ言っているのは正則だ。緋色は彼の周りにうっすらと黒いものを視た。
「あきらめて、蒼眞をわたくしに譲りなさい!」
 ついに額についた世名の指で、緋色は視線を前方に戻す。世名は必死の形相だ。
「わ、わたしに……」
 緋色が右斜め下に目を向けると、やや頬を紅潮させている愛凜がいた。相変わらずスカートを掴んでいる。
 ど、どうすればいいの?
 不測の事態に緋色は混乱。どうすることもできずに呆然と立つしかなかった。助けを求め、蒼眞を見てみるも、彼は先刻から全く動いていない。
「二人とも、まぁ落ち着きなって」
 意外にも助け船を出したのは楽美だった。世名と愛凜を緋色から引きはがし、彼女達の肩をポンと叩いた。
「緋色ちゃんはまだ蒼眞くんを好きかどうかわかんないんだって。だから二人がそこまで心配する必要はないよ」
「そ、そうなんですの? ……緋色さん、これは失礼しましたわ!」
 ウェーブした金髪を激しく揺らし、世名は頭を下げた。
「ご、ごめんなさい!」
 彼女にしては張り上げた声で、愛凜は謝罪した。
 謝る二人にうんうんと頷いてみせる楽美。
 緋色はようやく一息つくことができた。
 ……ん?
 機を同じくして緋色、世名、愛凜の頭上にハテナマークが出現。三人は揃って首を傾げる。
「そもそも……」
「楽美さんの……」
「せ、せいじゃないの?」
 三人の視線が楽美に集まる。
「あ! わたしちょっとトイレ~」
 棒読み丸出しで楽美は素早く出口へと向かう。
「ちょっと楽美さんっ?」
 世名は楽美の手を掴んだ。
「な、なに?」
 空気がまたなんとなく険悪ムードになる。と緋色は予想したが、
「わたくしもお手洗いですわ」
 そうはならなかった。緋色は同時に安堵の息を吐いた。
「なーんだ」
「そういうわけだから行きましょう」
 楽美と世名は手を繋ぎ、部屋を出ていった。
 それを見ていて、なんとなく緋色は胸にもやもやを感じる。
 シャカシャカシャカシャカ。
 その場にいる誰もが気づいていなかったが、蒼眞はメガネの奥にある瞳で、閉じられたドアを眺めていた。
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むぅ…


あ、アタシも蒼眞くん好きですっ!

ライブが終わればやっぱりいつもの蒼眞くんなんだなぁ、、、

ちょっと最後の数行が気になりました!
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