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『カギビト』13(ライトノベル)

 うわぁ……。
 たった数秒のイントロで、緋色はもう彼の創り出す世界に飲み込まれてしまった。
乾いた音でのストロークは軽やかなテンポを刻み、澄み渡るアルペジオは空間を彩る。
 ギターが軽快に掻き鳴らされ、そこに蒼眞の涼やかな声が乗るAメロ。
《慣れている生活とお別れする変わり目で 僕らはなにを思うのだろう
 この先に広がってる輝く未来は それぞれの道に続いてる》
 やや憂いを秘めたBメロ。
《進んでいくのが怖い 一人きりだと辛いよ
 でも目を閉じてみれば みんなの笑顔でまた笑える》
 溢れ出す光のようなサビ。
《いつかまたみんなと会える時も 変わらぬ笑顔でいたい
 その時が来るのを待たないで 待てないで
 輝く未来に届け
 両手を前に伸ばしていけば きっと光を掴める》
 イントロと同じ間奏があり、そして二番へ。
 ギターの音を区切りながら弾き、メリハリをつけたAメロ以外は一番と同じだ。
《涙が流れるくらいに悲しくて 僕らは俯いてしまう
 この先に広がってる 果てなき未来を思って不安になる
 見えない未来が怖い 一人ではなにもできない
 でも心の中の思い出を 力に変えて進むことはできる
 わからない未来だから 進むべき価値があるんだと気づいた
 いつまでも一人悩んでないで 泣かないで
 輝く未来に届け
 一歩を前に踏み出していけば きっと光に出会える》
 ここで蒼眞の巧みなギターソロが入る。流れる指が弦の上を軽やかに舞い、音達はまるで生きているみたいに踊り出した。
 その後は最大の盛り上がりをみせる二連続のサビ。ギター音と蒼眞の声に、より一層の輝きが宿る。
《声を大にして叫べ
 僕らのすぐ目の前に迫る未来は 輝く光で溢れている
 眩しくて
 まっすぐにそこまで届け
 僕らの気持ちを押し出していけば きっと光を感じるだろう
 いつかまたみんなと会える時も 変わらぬ笑顔でいたい
 その時が来るのを待たないで 待てないで
 輝く未来に届け
 両手を前に押し出していけば きっと光を掴める
 そうきっと光を掴める》
 始まりという終わりに向かい、一気に駆け抜けるメロディ。それはイントロと同じ弾き方で綴られるが内容は全く違い、新たな始まりを予感させるものだった。
 いつまでも余韻を残す最後の音。それは夜空の星のようにキラキラと瞬いていた。
 場に二つの拍手が湧き起こる。一つは楽美の、もう一つは緋色のものだ。が、緋色の方はすぐに収まった。緋色は自分が隠れていたことを思い出したのだ。
「いや~『未来』はいい曲だね。中学卒業の時に作ったんだっけ?」
「はい」
 蒼眞はなんでもないことのように答えた。
「!」
 緋色は叫び出しそうになるのを必死に堪える。
 聞き間違いじゃなかったら、今氷鉤くんは自分で曲を作ったって言わなかった?
 緋色の頭は次々と知らされる新しい情報を処理しきれなくなっていた。
「今日はこの後いつもの場所?」
「はい」
 そこで蒼眞は腕時計を見た。二回文字盤を確認してからせっせとギターを片づけ始める。
「すいません、もう時間です。これ弾かせてくれてありがとうございました」
 お礼を述べながら、蒼眞はギターを楽美に渡した。さらに、制服の内ポケットから取り出した紙も彼女の手に置く。
「あ、これ……」
 それはライブのチケットだった。
「七時から『ロッカーズロッカー』でやりますんで、時間があったら来てみて下さい」
 軽く会釈してから帰ろうとする蒼眞を、満面の笑みの楽美が止める。
「あのさ、このチケットもう一枚ない?」
「? ありますけど……」
 蒼眞が出したチケットはすぐに楽美の手に移った。
「ありがと。じゃあライブ楽しみにしてるね」
 ほんの一瞬だけ、楽美が緋色に視線を送る。緋色はその意味を理解し、大きく首を振った。
 無理だよ。氷鉤くんのライブを観に行くなんて。正直興味はあるけど……でも尾行がばれちゃう。
「失礼します」
 蒼眞はいつもの暗い調子でその場を去っていった。
「ちょっと楽美さんっ?」
 蒼眞が店を出たのを確認してから、緋色は声を張り上げた。いやらしく笑う楽美に詰め寄る。
「照れない照れない」
「て、照れてません!」
 楽美は相変わらず勘違いしている様子だった。
「好きな男の子のライブ観れるんだからいいじゃん。素直に喜ぼうよ」
「別に好き……」
 じゃない。と緋色は言おうとしたが、そこで少し考える。
氷鉤くんを好きじゃないってことになると、なんで彼をこそこそ観察していたのかが説明できない。好き以外でそんなことをする理由が見当たらないし。
そもそも自分がなぜ彼を気にしているのか、それさえもはっきりとはわからない緋色は、言葉に詰まった。
「別に、なに?」
 楽美が台詞の続きを求める。焦る緋色。逡巡してから決心した。
「好きじゃないんですけど、気には……なってます……」
 この言葉は嘘ではない。緋色は確かに蒼眞のことが気になっているのだから。ただ、『気になる』のニュアンスが楽美の想像とは異なる。
「なーるほど。やっぱりそういうことなんだ。青春だねぇ」
 楽美は両手を合わせてうっとりとしている。
 緋色は体が熱くなるのを感じた。自分の気になる人のことを他人に話すのはかなり恥ずかしい。たとえ好きでなくても。
 あぅ、絶対顔赤くなってるよ……。
「はい、これね」
 楽美は緋色にチケットを渡した。
 緋色はそれをじっくりと眺めてみる。日時と場所が書いてある上に『コバルトブルー』というバンド名が表記されていた。
「ライブ開始の七時までまだ一時間以上あるけど、どうする? 一度帰る?」
「はい、そうします。服も着替えたいし、夜遅くなるならご飯も食べときたいですし」
「わかった。じゃあ七時十分前にまたこの店に来て」
「はい」
 軽い挨拶を済ませ、緋色は店を出た。空はもう幾分か暗くなってきている。
 色々と不安はあるものの、とりあえず緋色はライブを観に行くことにした。やはり興味はあるのだ。それにさっきのあの瞬間に蒼眞の曲のファンになってしまっていた。それ故、純粋に他の曲も聴いてみたいのだ。
 後一時間以上あるといっても、ご飯を食べるとなるとあまり時間に余裕はない。緋色は駆け出した。
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No title

ぼくもいろいろ考えてゆない。さんみたく書こうとしたんですけど
なかなかむずかしいですよね。
かいてるだけで情景がわかるってすごい!!と思いました

この曲って?

ゆない。さんのオリジナルソングですよね?

アタシいまちょっと色々あって落ち込んじゃってたから凄い勇気でました。
きっとメロディも素敵なんだろうなぁ。
なんて考えてたら聴きたくなっちゃいました!

緋色ちゃん同様アタシも他の曲が気になっちゃってまし゜+。(*′∇`)。+゜

オリジナルソング!

おお!オリジナルソングが途中でまぎれこんでたり・・・

未来ですか、趣味を上手に作品に混ぜ込むって
また新しい発想でいいですね!

No title

この曲がゆない。さんのオリジナルソングですよね!?
『未来』に希望が持てるような歌詞ですごく良いです(≧∀≦)♪

蒼眞がギターをカッコよく弾いてるのが分かります!!
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ゆない。と申します。

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Author:ゆない。
ゆない。です! 作家を目指してます!

Author:ワキオ
ゆない。と共に作家を目指しています!

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