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『カギビト』12(ライトノベル)

 ホームルームが終わると、蒼眞はヘッドフォンをつけ、さっさと教室を出た。
 シャカシャカシャカシャカ。
 いつものようにヘッドフォンから音を漏らしつつ、廊下を進み階段を下りる。げた箱に着き靴に履き替える際、ふと背後を振り返った。
「…………」
 が、すぐに顔を戻し、何事もなかったかのように歩いていく。
 あ、危なかった~。
 げた箱の隅から校庭を歩く蒼眞の背中を眺めていた緋色は、独り心の中で呟いた。
蒼眞が結構進んだところで靴を履き、自身も校庭へと出る。彼が校門を抜け、左に足を向けると、自らもまた同じ方向へ。
 つまりは尾行だった。緋色は蒼眞の後をつけているのだ。
 なぜ彼女が蒼眞を尾行しているのか? その答えは昼休み、舞依との会話にある。
 あの後、しばらくして落ち着いた舞依はこんなことを言った。
「ところで、これもなんとなくなんだけど、氷鉤のことが不思議と気になるのよね。あ、好きとかじゃなくてね」
 緋色は驚いた。舞依が自分と同じことを感じていたからだ。
「緋色……?」
 舞依が顔を覗き込んできた。ややあってから緋色は口を開く。
「わたしもだよ……」
「え……?」
 先刻とは立場が逆転、今度は舞依が驚く番だった。
「わたしも……ってどういうこと?」
 緋色は顔を上げ、舞依と視線を合わせる。
「わたしも氷鉤くんのことが気になるの。好きとかじゃなくて」
「! ほ、ほんと?」
「うん」
 緋色は真剣な顔で頷いた。
 そこで二人に共通の考えが浮かぶ。
「やっぱりあたし達……」
「昨日なにかあったよね」
 二人は同時に頷いた。舞依は腕を組む。
「キーマンは……」
 緋色は右手人差し指を立てて断言した。
「氷鉤蒼眞くん」
 思考から舞い戻り、緋色は再び蒼眞へと意識を向けた。
 蒼眞は街方面へどんどん進んでいる。少し離れた位置で緋色もそれに続く。学校からここまで、蒼眞は全く警戒していなかった。それもそうだろう。まさか同級生に尾行されていると誰が予想するか。
 ちなみに舞依はこの尾行に参加していない。今日は部活があるのだという。
 蒼眞が駆木駅に到着。このまま電車に乗るのかに思われたが、彼は駅には入らずその裏手へと回った。緋色は電車に乗ることにならないで多少安心する。遠くまで行くとなるとさすがに尾行はできないからだ。
 蒼眞は一軒の店に入っていった。緋色も続けて入ろうとしたが、その店の看板を見て驚き、足を止めた。
 『Loud Sound』。
 エレキギター型の看板にはそう記されていた。どうやら楽器店のようだ。
 この手の店に緋色は入ったことがない。だからすぐに入るのをためらったが、やがて意を決して扉を開ける。
 店に入った途端、大音量の音楽が耳を刺激した。それがスピーカーから流れているものだとわかり、ついつい天井を見上げてしまう。
 そして緋色は絶句した。
 ありとあらゆるギターが壁につるしてあった。色や形も様々、緋色が思い描くギターというものの枠を超えた楽器達が整然と並んでいる。緋色はその壮観な光景に息を呑むしかない。
「いらっしゃいませー!」
「は、はいっ!」
 元気な店員の一声で、緋色は我に返った。
「試奏したい時は言ってね」
 店員は美しい女性だった。歳は二十前後だろうか。髪は栗色でセミロング。全体的に明るいイメージを相手に与える。緋色もその例に漏れず、第一印象で彼女を気にいった。
「あの……わたしこういうとこ初めてで……」
 狼狽する緋色を、女店員はにやにやと見ていた。瞳は輝き、頬は上気している。
「あ、あの……」
「んもう可愛いぃー!」
「きゃあっ?」
 女店員は抱きつくというには生易しい、タックルを緋色に敢行。そのまま力強く抱き締めた。
「い、痛いです……」
「こんな可愛い娘見たことない!」
 叫びつつ、女店員は緋色に頬をこすりつける。
 この人、なんとなく舞依ちゃんに似てるな……。
「あ! ご、ごめんね~!」
 緋色のほっぺを引っ張ったあたりで、やっと女店員は元に戻った。
「あはは……。大丈夫です」
 頬をさすりながら緋色は苦笑。女店員は慌てる。
「えっと……あの……その……!」
 女店員は今までの醜態を恥じるように、忙しく動き回った。
「ぷっ……あはははは!」
 その動作がすごく滑稽に見えて、緋色は噴き出してしまう。
「いやー、はは……」
 女店員も頭をかきながら苦笑いした。少しの時間そうした後、パンと手を叩く。
「あ、そうだ。君この店初めてって言ったよね? だったら案内してあげる。いきなり失礼なことしちゃったからそのお詫び。ね?」
 などとウィンクされたら緋色も頷くしかない。
「よかった。じゃあ決まりね。わたしは小橋楽美(こばしらくみ)、二十一歳。大学生だよ」
「わたしは夏代緋色って言います。駆木高校一年生です」
 ぺこりと緋色はお辞儀をした。
「駆木? じゃあ蒼眞くんと一緒だね。あ、もしかしてお友達?」
「え? は、はい。クラスメイトです」
 緋色は楽美との会話ですっかり忘れていたことを思い出した。
 わたし、氷鉤くんを追ってたんだった。
 と、そのせいで楽美への質問が遅れた。
「あの、氷鉤くんのこと知ってるんですか?」
 楽美はにんまりと笑う。
「もちろん知ってるよ。店の常連さんだからね」
 さすがに意外だった。緋色は目をパチクリした。
氷鉤くんが楽器店常連だったなんて……。
「意外でしょ? わたしも最初はそう思ったんだ」
 見透かすように楽美は笑った。
「でもすごいんだよ、蒼眞くん。ギターめちゃくちゃうまいんだ」
「えぇっ?」
 緋色はとっさにオーバーアクション。大きく仰け反った。
「うんうん。この事実を知るとみんなそうなるんだ」
 楽美は腕を組み、何度も頷く。
「あ、こんなとこで立ち話もあれだし、歩きながら色々教えてあげるよ」
 緋色の返事を待たず、楽美は歩き出した。仕方なく緋色も後についていく。
 最初に来たのはギターコーナーだった。スタンドに立てられたギターが整然と並んでいる。
「ここはね、エレキギターの中でも比較的安いものが売られてるんだ。要はビギナー向けってことだね」
 説明する楽美はとても生き生きとしていた。
 緋色は一番端にあるギターの名札を見る。値段は約一万円だった。
 エレキギターってもっと高いものかと思ってたけど、そうでもないみたい。
「その値段覚えといてね?」
 楽美はいたずらっぽく笑った。
「?」
 緋色は不思議に思うも一応値段を記憶。歩き出した楽美の後を追う。
 次に着いた場所には大小様々な箱がたくさんあった。それらは、緋色にはスピーカーのように見えた。
「これはアンプって言うものね。あ、そうだ。その前にエレキギターがどうやって音を出してるか知ってる?」
「え? 普通に弾けばいいんじゃないんですか?」
 ふふんと楽美はその豊満な胸を揺らして笑う。そして一度ギターコーナーに戻りギターを持ってきた。
「まずなにもしないで弾いてみるよ。あ、手に持ってるのはピックっていうやつね。これで弾くんだ」
 楽美はギターの弦を優しく撫でた。シャラーンと小さい音が鳴る。それは緋色が想像していたものとは全然違い、とても貧相な音だった。
「こんな音なんですか?」
「もちろん違うよ」
 楽美は瞳を輝かせながら、持っていたギターとアンプを繋いだ。アンプの目盛りを調節し、もう一度先程と同じようにギターを撫でる。
「!」
 その音に、緋色はほんの一瞬だけ飛び跳ねてしまった。さっきのとはまるで別物、大きくて深い響きだったからだ。
「エレキギターっていうのはね、ギター本体で鳴らした音がアンプから出て、それで初めて奏でられるものなんだ。だからエレキの音質を高める上でアンプはとても大事なの。もちろん本体の機能も重要だけどね」
 感慨深く頷く緋色の傍ら、楽美は一曲歌ってみせた。それは緋色も知っている曲で、オリコンチャート一位のやつだ。明るい雰囲気の楽美が歌うとかなり似合っていた。
「どう?」
 楽美はとても楽しそうに笑いかける。緋色はなんだか胸が温かくなった。
「すごくよかったです。楽美さんギター上手いんですね」
 いやー、と楽美は頭をかいた。しかし、すぐに真顔になる。
「でも蒼眞くんはもっともっと上手いんだよ」
「そ、そうなんですか?」
 蒼眞がギターを弾く。それだけでも緋色は信じられないのに、しかもかなり上手いとなると、驚愕するしかない。
「ははは。わたしも最初は驚いたよ。『あんな冴えない子が?』ってね。でも、演奏を聴いてわかった。蒼眞くんは本物の天才だよ」
 緋色はまるで別人の話を聞いているような気分だった。
 あの氷鉤くんが、クラスでも目立たない彼が、音楽の専門家に天才だと言わせる逸材だなんて……。
「あ、次、案内してもいいかな?」
「は、はい」
 まだ驚きを抑えきれないまま、緋色は楽美に続いた。
「またギターですか?」
 緋色の目の前には先程と同じようにギターが並んでいた。多少長さが違うかもしれないが、緋色の目にはギターにしか映らない。
「これはね、ベースって言うんだ。弦の数や太さを見て」
 言われた通りに緋色は視線を移す。弦の数は四本あり、かなり太い。
「ね? ギターとは違うでしょ? ちなみにわたしの専門はベースなんだ」
「へぇー。やっぱり音もギターとかなり違うんですか?」
「そうだよ。ギターより低い音が出るんだ。ただ弾くだけなら初心者でもできるから、もし興味があるなら今度教えてあげるよ」
「はい。その時はお願いします」
 二人は微笑み合った。
「さぁ、ここからがメインイベントだよ。こっちこっち」
 楽美は緋色の手を掴み、店の奥に入っていった。
「!」
 蒼眞がいた。壁につるされているギターの一本を凝視している。
 緋色はとっさに楽美の後ろに隠れた。一応尾行をしているのだ。ばれては元も子もない。
「? どうしたの? 緋色ちゃ……」
 と、そこで楽美は黙考。ややあってから手を叩く。
「あ、そういうことか! ふ~ん、こんな可愛い娘がねぇ。やるな、蒼眞くん」
 多少悔しそうに、しかし笑う楽美。蒼眞と緋色を交互に見る。
「あの……」
 どうやら楽美はなにか勘違いしたようだった。緋色は否定するのもバカバカしくなり、とりあえず苦笑しておいた。
「わかってるよ。じゃあ蒼眞くんにばれないようにこっそり見よう。ね?」
「はぁ……」
 隠れるための口実ができたので、緋色は一応頷く。楽美の背中に隠れて、蒼眞の様子を窺った。
 シャカシャカシャカシャカ。
 蒼眞は相変わらず一本のギターを食い入るように眺めている。緋色もそちらに目をやると、鮮やかな蒼いギターがあった。丸っこいフォルムだが、力強さを感じさせる。
「ギブソンのレスポールスタンダードだね。かなり有名なギターで、プロも大勢使ってるよ。あ、でも蒼色っていうのは珍しいね。太い音が出るからロックには最適のギターなんだ」
 楽美が解説した。
 プロも使うギターだと知り、緋色はその値段をチェックする。
 シャカシャカシャカシャカ。
「え……?」
 それきり言葉が出ない。その値段に驚愕してしまったからだ。
「約三十万円だね」
 なにも言えない緋色の代わりに、楽美が口にした。
「そ、そんなに高いんですか?」
「うん、そうだよ。三十万なんてざらにあるし、もっと高いのもたくさんある。ここはその高級ギターのコーナーなんだ」
「は~」
 緋色が辺りを見回してみると、確かに高値のオンパレードだった。
 こういうことだったんだ……。
 さっき楽美がギターの値段を覚えておいてと言ったのにようやく合点がいく。ちょっとでもギターを弾いてみようなどと考えていた緋色は、自分の無知さを反省した。
「あ、勘違いしないでね。みんながみんなこんな高いギターを使ってるわけじゃないから。ここはかなり上手い人かお金持ちしか手を出せない領域だからさ。大体の人はさっきの安いギターだよ。それでも最初は十分だしね」
 なんとなく落ち込み気味の緋色に、楽美は励ましともとれる言葉を投げかけた。緋色の気分は多少回復する。
「そ、そうですよね。こんなに高かったら高校生とか買えませんもんね。ちなみに小橋さんはいくらのを持ってるんですか?」
「楽美でいいよ。そうだな、わたしのはベースだけど、たしか十五万くらいしたよ」
「…………」
 シャカシャカシャカシャカ。
 緋色のテンションは再び下がった。楽美は必死に手を振る。
「あ、でもわたしのは別にそんな大層なものじゃないから。それにわたしに全然つり合ってないし」
「……楽美さんってベース何年くらいやってるんですか?」
「え? えーとわたしは……九年かな」
「じゃあ氷鉤くんは?」
「うーん……詳しくは知らないけど、かなり小さいころからやってたらしいよ」
 あまり期待はできない尾行だったにも関わらず、意外にも緋色は新たな発見をいくつもした。
これはかなりの収穫だね。明日舞依ちゃんに教えてあげなきゃ。
 と、楽美が蒼眞に駆け寄る。途中振り返り、緋色に指で『静かに』とやった。その後、蒼眞の肩をバシッと叩く。
 蒼眞は楽美の存在に気づくとヘッドフォンをはずした。
「や、蒼眞くん」
「……どうも」
「どうも、じゃないよ。相変わらず暗いねぇ」
「はぁ……」
 そんなやり取りを見て緋色は『やっぱり』と思う。やはり氷鉤蒼眞は暗い。とてもギターを弾くようには見えない。
「今日も試奏してみる?」
「え? いいんですか?」
 楽美の提案に、蒼眞の瞳が一瞬揺らいだ。
「いいのいいの。どうせそのギターは蒼眞くんが予約してるみたいなもんだし」
「楽美さん、まだ働いて半年の人にそんな権限あるんですか?」
 蒼眞の疑問は無視し、楽美は慎重にギターを取ってから彼に渡した。さっきと同じようにアンプとギターを繋ぐが、目盛りの調節は蒼眞に任せる。
「よし、蒼眞くん、いつものよろしく」
 楽美は蒼眞を椅子に座らせた。
「この曲好きですね。一番だけでいいですか?」
「だーめ。今お客さんいないし、全部歌って」
「……わかりました。じゃあいきます、『未来』」
 蒼眞の右手が波を打ち、そして光の粒のような旋律が奏でられる。
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おお!

意外な一面が!
というか、ゆない。さん、楽器詳しいですな。
やっておられるんでしょうか。
fateは音楽はからきしです(・・;

なんか、もっと恐ろしい真実でも出てくるかと身構えていたら、すごく素敵な世界に連れてこられて、なんか得した気分です~

風邪、早く治してくださいね!

やふぃ!

音楽ネタも含まれてきて、凄い面白いなぁ


ちゅか、蒼眞くんちょっと惚れそう////←


あー…続きがぁー!蒼眞くんの歌がぁー!
聴きたくてしょーがない
プロフィール
ゆない。と申します。

ゆない。

Author:ゆない。
ゆない。です! 作家を目指してます!

Author:ワキオ
ゆない。と共に作家を目指しています!

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