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『エレベーター狂詩曲(ラプソディー)』(小説)

エレベーターガール「いらっしゃいませ~、マンハッタンへようこそお越しくださいました。本日は私くし須藤が、当エレベーターの担当をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」
ランチのため訪れた男性「随分丁寧ですね。ところでマンハッタンなんて店、このビルにありましたっけ?」

須藤「当エレベーターの名称でございます」
男性「ああそうなの、エレベーターに名前ついてるんだ」

須藤「もしよろしければ、お客様のお名前をお聞かせいただけますでしょうか?」



男性「えっ? 名前聞くの? 桑田です」

須藤「桑田です様ですね」

桑田「ですいらない! 桑田」

須藤「失礼いたしました。ですいらない桑田様ですね」

桑田「ですいらないはいらないっ!! 桑田だけでいいんだよ、桑田だけで!」

須藤「会話が進むにつれてどんどんお名前が長くなって。こんなお客様初めてです」

桑田「オマエ舐めてんのかっ! 俺の名前は、く・わ・た」



須藤「……??」

桑田「桑の実の桑に、田んぼの田」

須藤「苦しみの末に、自殺した」

桑田「そんなこと言ってねぇだろ! なんで俺がこの程度のやりとりで自殺すんだよ! そんなんじゃ命がいくつあっても足りねぇよ!」

須藤「残念ながら、お客様のお名前を把握することができませんでしたので、私くしのほうでニックネームを付けさせていただきます。ニックネームは『桑田』ということでよろしいでしょうか?」

桑田「最初からちゃんと俺の名前分かってたんじゃねぇか! オチョクッてんのかオマエッ!」



須藤「はい」

桑田「はいじゃねぇよ! なんだその『私くし接客のプロです』みてぇな顔しやがって! それよりもこのエレベーター、すげぇ豪華じゃん!」

須藤「桑田様、それではこれより、内装についてのご説明をさせていただきます。まずは桑田様にごゆっくりとおくつろぎいただけますよう、目の前にソファーがございます。その前にはテーブル、そしてテーブルの上には新聞、雑誌、テレビがございます。そちらご自由にご覧ください。ではどうぞソファーへおかけくださいませ」

桑田「いや別に座らなくても、すぐだから。10階お願いします。ファミレスの¥800の日替わりランチを食べにきたんですよ。ランチは¥900以内でって、女房からうるさく言われてて。もう金欠病だから」




須藤「申し訳ございません、10階到着まで30分少々かかりますので、どうぞおかけになって……」
桑田「いやいや、30分少々って……。あなたが10階のボタンをポチッと押せばすぐつくでしょ!」


須藤「…………」


桑田「…………ねえ、須藤さん?」




須藤「…………」




桑田「…………おいシカトかよ!」


須藤「はい!」
桑田「『はい!』て! 元気いいな! とにかく早くボタンを押してくれよっ!!」
須藤「桑田様、そんなに興奮なさいますと、またいつものように血圧が……」


桑田「またいつものようにって、俺とあなた、今日が初対面だから!今初めて会ってまだ1分ぐらいしか経ってないから! それに何で初対面のあなたが俺の血圧のこと知ってるの? 確かに俺、血圧高めだけど。それにメタボリックシンドロームで、毎朝のジョギングと、日曜日にはスポーツジムに通って……って何でこんなこといちいち初対面のあなたに話さなきゃなんないの?」




須藤「くだらない武勇伝はもうそのくらいにしていただいて、説明を続けさせていただきます。当エレベーターではドリンクの無料サービスがござい……」

桑田「おいちょっと待てっ! 武勇伝なんて一切語った覚えないんだけど。それに今‘くだらない’まで付けたよねぇ。‘くだらない武勇伝’って一体どういう……」

須藤「コーヒー、紅茶、ウーロン茶、オレンジジュースの中からお好きなものをお選びください」
桑田「おーい、須藤さんって人の話を聞かないタイプですかぁ~~?」
須藤「コーヒー、紅茶、ウーロン茶、オレンジジュースの中からお好きなものをお選びください」
桑田「分かりましたよ、選びゃいいんでしょ選びゃ。座らせてもらうとしますか。それじゃあコーヒーください」



須藤「ヒーヒー」

桑田「ヒーヒー?」

須藤「ヒーヒー」

桑田「突然なに言い出すの?」

須藤「いや、桑田様が『ヒーヒー言ってください』とおっしゃったものですから、ご要望にお答えして」

桑田「『ヒーヒー言ってください』なんて言ってねぇよ! あなたにヒーヒー言わせて俺は何が楽しいんだよ! だいたいそんなご要望にいちいちお答えしなくていいんだよ」



須藤「それならば、ヒーヒーフーー、ヒーヒーフーー。ではご一緒に」

須藤・桑田「ヒーヒーフーー、ヒーヒーフーー」

桑田「なんでラマーズ法なんだよ! しかも俺まで巻き込みやがって」

須藤「ヒーヒーでないとなるとあとは、ヒーヒーフーーぐらいしかないかなと」

桑田「なんかいつの間にかどんどん話が関係ない方向に行ってない? 俺はただ、『コーヒーください』って言ったの!」

須藤「えっ? なぜ突然こんな場所で『コーヒーください』なんておっしゃったのですか?」

桑田「はぁっ? あなたが好きなドリンク選べって言ったんだろっ! まるでこっちが頭おかしいみたいな言い方すんなよ! コーヒーだよコーヒー」



須藤「かしこまりました。コーヒーには、ホット、アイス、『熟成』とございますが?」
桑田「『熟成』っ? なにそれっ?」

須藤「淹れてから常温で1ヵ月間放置した、独特な香り漂う、こちらで一番人気のマンハッタンオリジナルコーヒーでございます!」
桑田「おいっ! 独特な香りってただカビ臭いだけじゃねぇか! 飲めるかそんなもんっ! なにが一番人気だよ!」

須藤「ありがとうございます。ではこちらの『熟成コーヒー』でございますね」



桑田「『熟成コーヒー』楽しみだなぁってちがうっ! 須藤さんおねがいしますよ~。もうわかった、じゃあホットコーヒーください」

須藤「『おっとどっこい』でございますね」

桑田「『おっとどっこい』なんて言ってねぇよ!」

須藤「『おっとどっこい』とは、相手の行動やことばなどに不満を感じて、それをさえぎる時に発することば。という意味でございます」

桑田「須藤さ~ん、俺がいつ『おっとどっこい』って言いましたか~~? ホットコーヒーだよホットコーヒー!! おかしいでしょ今ずっと飲み物の話してきたのに急に『おっとど……」

須藤「おっとどっこい!!」

桑田「えっ?今須藤さん、俺の話さえぎったよねぇ。要するにそれって、俺に不満を感じて……」

須藤「おっとどっこい!! 桑田様が、あくまでも私くしの聞き間違いであるということを、頑なに押し通されるのであれば、私くしにも私くしなりの考えがございます!」



桑田「チョッチョッチョッチョッチョッ! な、な、なんだよ、考えって?」

須藤「桑田様に、おいしいホットコーヒーを淹れて差し上げることでございます!」

桑田「おいっ! オチョクッてんのかオマエッ!! はじめっからちゃんとホットコーヒーって分かってたんじゃねぇか!」

須藤「おっとどっこい」

桑田「なにがおっとどっこいだよ!」



須藤「お待たせいたしました、ホットコーヒーでございます」

桑田「ありがとう、じゃあいただき……」

須藤「ああっ!」

桑田「どしたぁ!?」



須藤「お熱いので、くれぐれもやけどには十分ご注意……」

桑田「分かってますから、大丈夫。ではいただき……」

須藤「うわぁっ!」

桑田「どしたぁ!?」



須藤「コーヒーカップの取っ手は、足の指で持ったり、口でくわえたりしても、コーヒーをお飲みなるのは非常に困難ですから、くれぐれも手の人差し指で……」

桑田「おいっ! もうこうして人差し指で取っ手を持ってるんだよ! それを見ながら何であなたはワザワザそういうこと言う? コーヒーカップの持ち方なんていちいち言われなくても分かってるから! あぁんもう。いただき……」

須藤「ばぅわぁっ!」

桑田「どしたぁ!?」



須藤「今、桑田様が人差し指でお持ちになっているそのコーヒーカップを、もしも私くしが『エイヤッ!』とおもいっきりひねったら、桑田様の人差し指は見るも無残に骨折し、こぼれたアツアツのコーヒーで桑田様の太ももはこれでもかってほどにケロイドが残るくらいの大やけど。フォッフォッフォッフォッフォッ!」

桑田「なんなのその高笑い? あなただいたいこういう接客業しているわりには、随分と残酷なこと言うよねぇ。須藤さんってひょっとしてドSか?」

須藤「ふぅ~。桑田様のお話って、いつもそうやってゴチャゴチャとくだらないことばかり。離婚なさった理由も、これでよ~く分かりました」

桑田「おーーいっ!いつもって、俺とあなたは今日が初対面ってさっきも言ったろっ!! それに最初の『ランチは¥900以内でって、女房からうるさく言われてて』って話で、俺には連れ合いがいるって分かるだろ! 俺を勝手にバツイチにすんなよ! あぁん?」

須藤「『女房からうるさく言われてて』なんて、幸せだったあのころの思い出を語る桑田様の悲しげな表情は、なんとも切なすぎました」

桑田「幸せだったあのころじゃねぇよ! 今の話してんだよ! 今朝もまた『ランチは¥900以内よ』って言われて家を出てきたんだから」



須藤「えっ? 今朝もまた『ランチは¥900以内よ』って言われたことに腹を立て、ついには自暴自棄になって、家出をされたのですね」

桑田「家出じゃねぇよ! 家を出てきたって言っただけだろ!」

須藤「……??? 『家を出てきた』ということと、『家出』は一緒じゃありませんか?」

桑田「『家を出てきた』ってのはただ出かけたってことでまたその家に帰るんだけど、『家出』ってのはもうその家には……」

須藤「熱弁の最中まことに申し訳ございませんが、私くしには何をおっしゃっているのかさっぱり。とにかくここは桑田様の独演会場ではございませんので、そろそろコーヒーをお飲みになって……」

桑田「おいっ! あなたが俺に質問したから丁寧に答えてやってんのになんだその態度は! 訳分かんねぇ御託いろいろ並べ立てやがって。いいよいいよもう、コーヒー飲ませてもらうよ」



桑田「あぁ、やっと飲めた。おいしいこのコーヒー」

須藤「桑田様、さすがにお口が肥えてらっしゃる! 本場ブラジルの厳選された最高級豆を使ったコーヒー、いつも私くし休憩時間に飲んでおりますが」

桑田「関係ねぇじゃねぇか!」

須藤「こちらは賞味期限間近のため、スーパーで大特価だったコーヒーでございます」

桑田「ブフッ! こっちは安物のコーヒーかよっ!」
須藤「ああ、桑田様! 噴き出したコーヒーがお洋服に……」

桑田「大丈夫ですよこのぐらい、ちょっと付いただけだから」

須藤「コーヒーがもったいない……」

桑田「そっちかよ! この安物のコーヒーがそんなに大事かっ!」

須藤「命の次に大切なのがこの、スーパーで買った安物のコーヒーでございます」

桑田「あなた言ってることおかしいでしょ」

須藤「おかしいときはお腹の底からおもいっきり笑いましょう。せーの」

須藤・桑田「ワッハッハッハッハッ!」

桑田「…………?? バカにしてんのかっ!」











桑田「じゃあテレビでもみようかな、あれ? このテレビ、何も映んねぇぞ」

須藤「何をおっしゃいます? ちゃんと映っているではありませんか、砂嵐が」

桑田「そういうの映ってるって言わねぇだろっ! なんだよ、どのチャンネルも砂嵐状態じゃん」


須藤「憂さ晴らし状態ですか?」

桑田「憂さ晴らし状態ってなんだよ」

須藤「ちょうど今の私くしの状態ですね。ハッハッハッ!」

桑田「じゃあなんだ? ちょうど今の俺の状態は、憂さ晴らされ状態かっ! 接客しながらストレス解消してんじゃねぇぞコラッ! それよりテレビテレビ。このテレビみれないんだけど」



須藤「それでは桑田様、このテレビをじーっと見つめていてください」

桑田「このテレビをじーっと見つめてりゃいいわけね、分かった。……………………って、何なのこれ? 何も起きないよ」

須藤「ご満足いただけましたでしょうか?」

桑田「はぁっ?」

須藤「テレビ、みれましたよね」

桑田「テレビみれましたよねって、確かにテレビの本体そのものは今ずっとみてたけど」

須藤「ですからテレビ、みれましたよね」




桑田「須藤さん、そういうのテレビみれたって言わねんじゃねぇの?」

須藤「テレビの表側だけでは物足りないご様子。そういたしましたら今、テレビ本体をグルッと回しますので、テレビの裏側もじっくりとご覧になってください」

桑田「君舐めてんの? 俺は映像が映らない、砂嵐だっつってんの!」

須藤「ご満足いただけないようで。桑田様って、一体いつのころからそんなにわがままになられたのですか? 地平線の向こうに沈みゆく夕日を眺めながら、未来の夢と希望を熱く語っていたあのころの桑田様は、どこへ行ってしまったのでしょうか?」

桑田「なに言い出すんだよ! だから俺とあなたは今日が初対面だろって! テレビみようとして砂嵐状態なら、『テレビがみれないよ』くらい言うだろ普通」

須藤「実は~、どういうわけか今年の7月ごろからずっとこのような状態が続いておりまして……」

桑田「7月ごろからって、じゃあ今まで乗ってきた客達からも、たくさんあったろ? クレーム」

須藤「たくさんございますよ。ポーションタイプのものがこちらに……え~、200個ほど」

桑田「それはクリーム、俺が言ってんのはクレーム」

須藤「かしこまりました。200個すべてコーヒーに入れ終わるまで、しばらくお待ちください」

桑田「待てねぇよ! だいたい俺がいつポーション200個分のコーヒークリームをコーヒーに入れてくれって頼んだ?」

須藤「あ、100個でしたか?」

桑田「100個じゃねぇよ!」

須藤「50個ですか?」

桑田「50個でもねぇよ!」

須藤「50個100個ですね!!」

桑田「なんでそこでことわざみてぇになってんだよ!」

須藤「50個だろうと100個だろうと、味音痴の桑田様には分かるまいと」

桑田「バカにするのもいい加減にしろっ! だいたいそんなにたくさん入れたらコーヒーカップからクリームが溢れ出すじゃねぇか! そもそもいらねぇんだよクリームなんて。コーヒーはいつもブラックだから。それよりテレビだよテレビ。ずっと映らないってのは、もしかして地デジ対応にしてないってことなんじゃないの?」

須藤「桑田様、おっしゃっていることの意味が良く理解できませんが……」

桑田「理解できないって。地デジだよ地デジ! もう世の中とっくにアナログから地デジに変わってるんだよ!!」

須藤「そんなことより先日、‘痔で血’が出たお客様がおりまして、その白いソファーが鮮血で真っ赤に染まるという、とても微笑ましい出来事が……」

桑田「微笑ましいってどこがっ! てかそのソファーに今俺は座ってるわけ?」

須藤「どうぞご安心ください、私くしがそのソファーに座ることは決してございませんので」

桑田「どうぞご安心って、安心なのはあなただけでしょ! 須藤さんってそういうこと話すときだけ、腹立つくらいに満面の笑みだよねぇ」



須藤「ところで桑田様、私くしの記憶が確かならば、桑田様はこのビルへランチを召し上がりにいらっしゃったと? 一体いつまでこんなつまらないやりとりを続ければ気が済むのでしょうか?」

桑田「あぁん? あなたがそれを言うっ? 引き止めてるのはあなたでしょ! だったら早く出発してもらえませんか?」


須藤「…………」


桑田「…………ねえ、須藤さん?」


須藤「…………」


桑田「…………おいシカトかよ!」



須藤「はい!」
桑田「『はい!』て! 元気いいな! とにかく早くボタンを押してくれよっ!!」
須藤「桑田様、そんなに興奮なさいますと、またいつものように血圧が……」

桑田「またいつものようにって、俺とあなた、今日が初対面…… おぉいっ! この流れさっきと同じ繰り返し! また‘おっとどっこい’まで行くの? それとも‘痔で血’まで行くの?」
須藤「うふふふふ。なかなか面白いことをおっしゃいますねぇ。笑点でしたら座布団二枚ですよ。……持っていかれるほうですが」
桑田「スベりまくってんじゃん、俺!」


須藤「おっしゃる通りでございます」
桑田「そんなにはっきり肯定せんでも! って、いい加減ボタンを押してくださいよ!」

須藤「今ふと気づいたのですが、『ボタンを押して』というのが口癖のかたもなかなか珍しいですねぇ」

桑田「口癖じゃないよっ! 『お久しぶりです、ボタンを押して』とか『いい天気だなぁ、ボタンを押して』とか言うわけないじゃん。いつまで経ってもボタンを押してくれないあなたのせいで、こっちは何度も『ボタンを押して、ボタンを押して』って言うハメになってるんだろう!」
須藤「なるほどそういうことでしたか。しかし今ボタンを押すことは致しかねます。もしもエレベーターが揺れてコーヒーがこぼれますと、最悪の場合、命に関わるケースもございますので」
桑田「命に関わるっ? なんでっ? それにさっき噴き出しちゃったとき、なんにも起こらなかったけど?」


須藤「これからお話することは、一度も公になったことのない、最重要機密事項でございます」

桑田「えっ! 最重要機密事項!? なになに?」

須藤「これまで残念ながら、当エレベーター内ではすでに10人以上ものかたが、モニャモニャモニャモニャモニャ……」

桑田「ん? なにっ? 最後のほう良く聞こえなかったんだけど」

須藤「すでに10人以上ものかたが、モニャモニャモニャモニャモニャ……」

桑田「今ちゃんと耳を澄ませて聞いてたんだけど、須藤さん、ただ『モニャモニャモニャモニャモニャ』って言ってただけじゃん!」

須藤「ふぅ~、ご理解いただけないようですね、残念です」

桑田「え? おかしいでしょその言い方」



須藤「ここまでご説明しても分かっていただけないのなら仕方ありません。どうかこの用紙のいちばん下に、日付とサインをご記入願えますか?」

桑田「なにこの紙? なんか書いてあるじゃん。『先立つ不幸をお許しください。コーヒーだけには気をつけろ!(でも須藤さんは責めないでね)』なんだこれっ! 要するに遺書じゃねぇか、ふざけんなっ!」

須藤「これでようやくご理解いただけましたか、コーヒーを全て飲み終えていただくまで、申し訳ございませんが出発は控えさせていただきます」
桑田「……よく分かんねぇけど、まあいいや。はい、飲み終わったよ」

須藤「生み終わりましたか? 卵」

桑田「俺はニワトリかっ! 何で俺が卵生むんだよ! しかもこのエレベーターっていう密室の中で。飲み終わったっつってんだよ」


須藤「それでは大変お待たせいたしました。桑田様、本日はどのようなご用件でしょうか?」

桑田「えっ!? ご用件? 用件は~ つまりその~ 上の階へ行きたいなぁって。¥800の日替わりランチを早く食べたいなぁって」



須藤「…………」



桑田「須藤さん?どうしたの?」



須藤「シクシク シクシク」

桑田「なんなんだよいきなり泣き出したりして」

須藤「そうですか、桑田様はただ上の階へ行き、そして¥800の……¥800の日替わりランチを食べるためだけにこのマンハッタンにお乗りになった」

桑田「¥800のところだけわざわざデカイ声で2度も言わなくても」

須藤「そんな貴方にとって、私くしの存在って一体なんだったのでしょうか?」

桑田「なんだったのでしょうかって、ただのエレベーターガールでしょう」

須藤「そうですか、やっぱり……。桑田様は、子供の頃からいつもそうやって私くしのことを見下してこられた……」

桑田「だから俺とあなたは今日が初対面でしょってこれ言ったの何回目だよっ!」

須藤「そんな下手くそな慰めは、もういい加減聞き飽きました」

桑田「なにその、下手くそな慰め何度も何度も俺がしてきたみたいな言い方」



須藤「それでは気を取り直して。桑田様、何階をご希望でしょうか?」
桑田「だから初めに10階って言ったじゃん!」
須藤「出発前にご希望階をお聞きするのが、こちらのマニュアルとなっております。どうかご了承くださいませ」
桑田「めんどくせぇな!」
須藤「だまらっしゃいっ!」
桑田「だ、だまらっしゃいっ!? 急にどうしたっ?」
須藤「お客様に『めんどくせぇな!』と言われたら、『だまらっしゃい!』とお返しするのが、こちらのマニュアルとなっております。どうかご了承くださいませ」


桑田「絶対ウソだろ! どんなマニュアルだよ!」

須藤「桑田様限定、世界にたったひとつだけのオリジナルマニュアルでございます」

桑田「ウソつけっ! そんなマニュアルあるかっ! たのむ、もう早くボタンを押してくれ!」
須藤「ご自分でなさったらいかがですか?」
桑田「はぁっ? 何階をご希望ですかって聞いたの須藤さんでしょ!」

須藤「それはマニュアルに則って仕方なく……。しかしボタンを押すという行為までは、マニュアルに書かれておりませんので」

桑田「じゃああなたの存在意義は? あなたエレベーターガールじゃないんですか?」
須藤「違います。『エレベーターの妖精』です」
桑田「あなたが『だまらっしゃい』だわ!」
須藤「うふふふふ。なかなか面白いことをおっしゃいますねぇ。お笑い番組だったら笑いの渦が巻き起こっていますよ。……失笑ですが」
桑田「だだスベりじゃねぇか! それじゃあ自分でボタン押すから。須藤さんちょっとどいて」

須藤「ダメでございます!」

桑田「ダメでございますって、『ダメ』に『ございます』付けるか普通? で、あなたさっき、自分でなさったらって言ったじゃん! どけどけっ!」



桑田「イテテテテテテテッ!! ちょっ! なにすんだよっ!」

須藤「こう見えても私くし、柔道5段、空手8段でございます」

桑田「だからってなんでランチ食べに来た俺が、エレベーター内でこんな痛い目に遭わなきゃいけないんだよっ!」

須藤「さきほどすぐにボタンを押さなかった貴方が悪い。今はもう気が変わりましたでございます」

桑田「あなたもしかして、とにかく最後に『ございます』付けりゃ何言っても許されると思ってない?」

須藤「おっしゃる通りでございます」

桑田「おっしゃる通りでございますって、また『ございます』付けてるし」



須藤「ではこういたしましょう。桑田様が私くしを笑せることができたら、ボタンを押して差し上げます。ただし、10階に行きたいのでしたら、10点のギャグをやらなければいけません」
桑田「難っ!」
須藤「勘違いなさらないでください。100点満点中10点でございます」
桑田「ハードル低っ! 舐めんな! ……え~と、じゃあ『コンドルが尻にめりコンドル』! なんつって」


須藤「…………」


桑田「須藤さん?」



須藤「Zzzzzzzz…………」



桑田「……え? 須藤さん、もしかして立ったまま寝てる? このいちばん大事なときに。いや待てよ。そっか! 今こそ10階のボタンを押すチャンス!!」



桑田「イテテテテテテテッ!! なんだよ! 須藤さん起きてたのかよっ!」
須藤「人が寝ているスキをついてボタンを押そうなどという下等な行為、断じて許さん! この愚か者めがっ!!」
桑田「この愚か者めがって、オマエは丸川珠代議員か! だけど何で俺、こんなに怒られなきゃいけないんだ? 元はと言えば、仕事中に居眠りした須藤さんが悪いんじゃねぇの?」

須藤「何でしょうか? 『また痛い目に合わされたいよ』っておっしゃっているように、私くしには聞こえましたが」

桑田「いやいやいやいやいや、もう須藤さんの寝顔は最高に可愛らしいなって言いたかったんですよ」

須藤「そうですか、ではお言葉に甘えて。Zzzzzzzz…………」

桑田「おいっ! だからってまた寝ることはねぇじゃねぇか! あれ? 寝てると思ったらいつの間にか10階のボタンを押してくれてた。やっと押してくれましたね、須藤さん」


須藤「やはりその……面白くて……」
桑田「なぁんだ、さっきの『コンドルが……』ってギャグ、聞いてくれてたんだ」
須藤「いいえ、顔が面白くて」
桑田「顔がっ? 失礼かっ! 謝れっ!」
須藤「失礼いたしました」

桑田「なんか素直すぎて怖い」

須藤「今ごろになって顔の面白さに気づいたこと、心よりお詫び申し上げます」

桑田「やっぱりそういうオチがあったか」

須藤「桑田様、楽しい時間というのは、あっという間に過ぎ去ってしまうものですね」
桑田「なにが楽しい時間だよ! あなたひとりで俺をオチョクッて楽しんできただけじゃねぇか!」



須藤「ただいま当エレベーター、10階へ向けて上昇中でございます。桑田様、本日はマンハッタンにお乗りいただき、まことにありがとうございました。またのお越しをお待ち申し上げております。ここまで、私くし須藤が担当させていただきました」



須藤「間もなく10階に到着でございます。それでは桑田様、覚悟のほどはよろしいでしょうか?」

桑田「覚悟のほどってなんだよ! あぁ、これでようやく¥800の日替わりランチに有り付けるなぁ」


須藤「お待たせいたしました、10階に到着でございます。1階あたり¥10500×10階となりますので、本日のお会計¥105000になります」



THE END
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