スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『ネオンの幻』(ショートショート)

 夕暮れから夜に変わる時分。空が橙から紫へ、端は漆黒へと移っている。
 街だ。ネオンで彩られた賑やかな駅前は、仕事帰りのサラリーマンで溢れている。
 中島(なかじま)もその一人だ。
 中島がネクタイを少しだけ緩めながら道を歩いていると、どこか見覚えのある女性が彼のほうに向かって歩いてきた。中島は失礼ではない程度に、彼女に視線を送る。
 すれ違いざまに、その女性も中島へ一瞬だけ目を向けたが、そのまま通り過ぎていってしまった。
 『あの人は……?』と頭をひねる中島。しばらくして思い出した。先程の女性は恐らく、高校の同級生『木村美智子(きむらみちこ)』だ。
「木村さん、ねぇ待って、木村さんですよねっ?」
 くだんの女性は、中島の二回目の呼びかけで振り返った。
「え? 私を知ってる? ということはやっぱり……」
 木村は目を見開き、息を呑んだ。そんな彼女の台詞の続きを、中島が継ぐ。
「そう、中島だよ! 高校のときの! 覚えてる?」
「……ええ、覚えてるわ。覚えてるけど……」
 木村の言葉は、やけに歯切れが悪い。彼女は未だ見開いた目で、中島をまじまじと眺めている。相当に驚いているようだ。
 中島はその態度の理由を、久しぶりに再会したせいだと解釈する。確かに二人とも、あの頃に比べたら色々と変わっているから、びっくりするのも無理はない。
「驚いた? でも、僕もびっくりしたよ。まさか、君がそんなに綺麗になってるなんて……」
 中島にしてみればお世辞のつもりだったが、木村にはそう伝わらなかった。彼女は眉をしかめる。
「なにそれ? 昔はブスだったって言いたいの?」
「ち、違うよっ」
 中島は首も折れよとばかりに、頭を振って否定した。
 『それを言うなら……』と、木村も反撃に出る。
「中島だって、かなり変わってると思うけど? さっきすれ違ったとき、別人だと思ったもの」
「あははは、そうだろうね。どう? 前に比べてかっこよくなった?」
 短めの前髪をかき上げ、中島は笑った。さわやかな好青年という感じだった。
「…………そりゃ、まぁ、かっこよくなったわよ……」
 木村の態度がまたも釈然としないものになった。中島を上から下まで、見ている。
「だったらよかったなぁ」
 中島は照れたように笑った。少年のような笑みだった。
「あの……中島さ、高校の頃からそうなりたかったの?」
 遠慮がちに尋ねる木村。
「そうだよ。木村とよく一緒に遊んだのも、実はそういう狙いがあったんだ。木村を狙ってたわけ」
「…………」
 木村は黙った。夜のネオンがごまかしてくれたが、彼女の顔は蒼白になっていた。
「でも大丈夫だよ。今は彼女、ちゃんといるからさ」
 ハッと我に返る木村。
「か、彼女? 彼女がいるの?」
 『驚愕』と、木村の顔には書いてあった。
「おいおい、失礼だな。この年になった男に彼女の一人くらいいてもいいだろ?」
 中島は冗談っぽく喋るが、木村のほうは真剣だった。
「彼女さんは、中島のことをなんて言ってるの?」
「え? 『愛してるよ』って言うよ」
「……そう。中島のことをちゃんと理解して付き合ってくれてるのね?」
「当たり前だろ。僕のことは全部話してあるよ」
「……そう」
 硬い表情のまま、木村は頷いた。
 その時、中島のポケットから電子音が響いた。携帯電話が鳴ったのだ。中島は『噂をすれば、彼女からだ』と言って電話に出た。
 それから楽しそうに電話をする中島を残し、木村はその場を離れた。複雑な心境のまま、そこにとどまることができなかったのだ。
「おい、木村っ?」
 焦ったような中島の声を背に、木村は足早にその場を去っていった。

 そこから少し離れた路地裏で、木村は足を止める。
 まだ動悸が続いていた。中島に対するあらゆる感情が溢れて、制御できない。
「まさか……」
 自分の気持ちを整理するかのように、木村は独語する。
「まさか……中島が『男になってる』なんて……」
 『信じられない……』という台詞は、喉の奥に引っかかった。
 『中島美咲(みさき)』。
 先ほど会った級友の本名を思い出しながら、木村は再び歩き出した。路地裏から出る。
 再び騒がしい夜の街になった。様々な人が行き交っている。木村もその流れに加わった。
「そういえば中島……今は名前変えてるのかしら?」
 はたと足が止まる。しかしすぐにまた、両足は動き出した。
「……どうでもいいわ」
 中島が女だろうと男だろうと、木村には関係ない。改名しているかどうかなど、さらに無関係だ。人は人。それぞれの人生がある。
 頭を振り、木村は歩く速度を早める。中島に出会った今夜のことは、街のネオンが見せた幻だと思うことにした。

おわり
スポンサーサイト
プロフィール
ゆない。と申します。

ゆない。

Author:ゆない。
ゆない。です! 作家を目指してます!

Author:ワキオ
ゆない。と共に作家を目指しています!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
読者様カウンター
訪問ありがとうございます!
ランキング
ゆない。のランキングです。

FC2Blog Ranking

ブロとも一覧
ゆない。のブロともですよ!

kitutukiブログ~みんなの趣味日記~

Stories of fate

君の知らない玉手箱

草を食む時間 ~The Grazing Time~

ajggjgjgdrikdikfff

月と氷

ようこそここへ!

夢の島を遊ぶ

あかねいろ*

かき氷2色スペシャル

カミツレが咲く街で

空のぺえじ

狂原さんのクルクル日記
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
2664位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
オリジナル小説
630位
アクセスランキングを見る>>
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ゆない。がオススメするブログです! こちらもぜひ!
ブロとも申請フォーム
皆さんブロともになってください!

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。